第3回 地域にあった再エネ導入を探る(太陽光、木質バイオマス熱利用、小水力、畜産・農業・水産バイオガス)
テーマ1 太陽光発電 『公共施設への太陽光発電の導入メリットと留意点』
(一般社団法人 太陽光発電協会新市場拡大推進委員会 公共・自治体WGメンバー
株式会社エクソル営業本部 産業推進部 公共推進課 (兼)経営企画本部 成長戦略開発推進室 横山正樹)
ポイント
- 太陽光発電システムは温室効果ガスの削減に高い効果が期待できる。
- PPAモデル等を活用し、エネルギーの地産地消を実現しよう。
- 太陽光発電導入においては「構想立案・事前調査」が最も肝心。設置候補場所の状態について念入りに確認しよう。
1.改正温対法の背景と概要
2023年、COP28(気候変動枠組条約締約国会議)においてパリ協定を進捗評価報告する「グローバルストックテイク(GST)」が初めて実施されました。日本を含む各国は、導入目標の前倒しや再設定の必要性を認識しています。国内においては、第6次エネルギー基本計画で、2030年の再エネ比率は36〜38%、そのうち太陽光発電は14~16%といった電源構成を目指す政策を打ち出しています。
現在、国内の太陽光発電量は70GW程度ですが、2030年度見込みでは103〜107.6GW程度、公共施設においては6GW程度とされています。
2024年4月施行の改正再エネ特措法においては住民への説明の義務が50kW以上で必要になるなど、認定手続を厳格化しています。
2.太陽光発電システムとは
太陽光発電は
●クリーンで枯渇しない
●非常用電源として利用できる
●設置場所を選ばずどこででも発電が可能である
●発電コストが低い
といった特性が挙げられます。
一方デメリットは天候や時間帯によって発電量が左右される事ですが、蓄電池やヒートポンプ、EVなどの「蓄エネルギー」機器をセットで導入することによりまかなうことができます。
太陽光発電システムの構成の一例を示します。次の図にあるように、太陽光発電のパネル、モジュール、アレイが設置されます。
パワーコンディショナは直流と交流との変換を行います。また高圧受電設備(キュービクル)に接続をして使用するのが一般的です。
図のような余剰逆潮流システムでは、余った電気は系統に流れていきます。
設置形態は屋根上のほか、地上(野立)、水上設置、シェアリング等、様々な形態があります。スペースがあれば太陽光発電書システムはどこにでも設置できます。
太陽光発電のCO2削減効果については、10kWdc(kWdc:太陽電池モジュールの設置容量(直流での出力))、年間10,000kWhの発電電力量の太陽光発電システムを設置した場合、年間で3.9t-CO2、東京ドームのグラウンド約1面分の森林相当の温室効果ガスの排出を削減できます。
3.太陽光発電システムの設置状況
近年のFIT価格を超える電気料金の高騰により、電気を自家消費をする方がメリットが高くなっています。2020年度以降はFIT制度においても、自家消費型の地域活用要件が設定されています(10kW以上〜50kW未満)。
こうした中で太陽光発電システムを事業者が所有し、ユーザーの建築物に設置し、そのシステム利用料もしくは、発電した電気の使用料をユーザーが事業者に支払う第三者保有(TPO)モデルが普及しています。
費用をかけることなく太陽光発電を使うことができ、場合によって電気代のところも削減されるといった特徴があります。一方で契約期間が長いというデメリットもあります。
この第三者保有(TPO)モデルは大きく二つに分けられ、このうちユーザーが発電事業者に屋根などのスペースを提供し、発電事業者が太陽光発電システムを設置して発電した電力をユーザーへ販売するPPAモデルのニーズが高まっています。
PPA向け補助金もあるため、公共施設へのこのモデルの導入の促進が期待されています。
環境省は地方公共団体の職員向けに「PPA等の第三者所有による太陽光発電設備導入の手引き」を策定しています。PPAによる太陽光発電設備導入に必要な業務が記載されています。
URL: https://www.env.go.jp/page_00545.html
<自治体での取組>
1. 京都府
300㎡以上の建築物に再生可能エネルギー利用設備の導入・設置を条例で義務付け
2. 埼玉県所沢市
遊休地の活用を検討し、一般廃棄物最終処分場と調整池において事業化
遊休農地を活用したソーラーシェアリング
3. 奈良県生駒市
全国初の市民団体出資による地域電力「いこま市民パワー」設立し、収益を市民サービスやまちの活性化のために活用
4. 京都府福知山市
地域電力「たんたんエナジー」等と[地域貢献型再生可能エネルギー事業の推進に関する協定」を締結し、市民からの出資、公共施設への導入を実現
5. 大阪府能勢町
地域電力「能勢・豊野まちづくり」等と地域課題の解決に向けた「オンサイトPPA事業」「リユースPV事業」「再エネゾーニング事業」を計画
6. 熊本県球磨村
災害公営住宅や公共施設の脱炭素化、蓄電池を最大限導入することでレジリエンスを強化、主要産業である林業のゼロカーボン・低コスト化やソーラーシェアリングによる荒廃農地の再生等
4.設置検討と導入のながれ
自治体においては、上流工程である「構想立案」、「調査」をいかに精度高く行うかが重要です。
<設置場所候補の選定>
このようなフローで設置場所を選定します。使用ツールとして、Googleマップを利用すると作業が効率的になります。
<概算容量の検討>
設置場所候補に対応した概算の設備容量を算出します。8㎡=1kWdcの出力が期待できます。
例1は公共施設で多いフラットなタイプの屋根の場合の係数、例2は傾斜屋根の場合の係数です。屋根の面積や傾斜で設置方法は変わりますが、概算で設備容量を仮決定します。
<デマンドの確認と利用率の検討>
電力会社の請求書や提供されているデマンドデータと、設置する太陽光発電システムの発電容量を比較します。
昼間の電力使用量と太陽光発電システムの最大発電量[kW]、年間電力消費量と年間発電量[kWh]を比較して設置するシステムを判断する材料とします。
自家消費しても余剰電力が発生する場合は、「蓄電池を導入しピークシフト対策する」、「小売事業者を介しの施設に融通する」といった利用方法もあります。
<自治体太陽光発電設備設置に向けての補助金>
環境省では自治体の太陽光発電設備設置に向けた様々な施策があります。
テーマ2 木質バイオマス熱利用 『地域主導の木質バイオマス熱利用の可能性』(株式会社バイオマスアグリゲーション 代表取締役 日本木質バイオマスエネルギー協会 理事 久木裕)
ポイント
- 木質バイオマスは地域内の「ヒト」「モノ」「カネ」「エネルギー」を循環させるスキームを整えることで、地域内経済波及効果、森林保護、地域レジリエンスの強化等の効果が見込める手法
- 木質バイオマスは発電よりも熱利用の方が高効率で長期的にコスト回収しやすい。
- 熱利用設備導入にあたりESCO型事業を推進する自治体がある。
- 地域の推進体制を育成・構築し、「地域主導」での自立的な取組みを進めることが重
1.木質バイオマス熱利用と地域の活性化
木質バイオマスは製材工場の廃材、街路樹の剪定枝、建築廃材などの木質資源を薪やチップ、ペレット等の燃料源に加工し、熱源・発電といった方法でエネルギー利用する手法です。
未利用材等を木材資源バイオマスエネルギーとして利用することは、森林の環境保全や災害の防止にもつながるだけではなく、流通の構造を転換し、地域のエネルギーにかかる資金流出を抑制し、幅広い経済効果が期待できます。
地域での経済効果を高めるためには、できるだけ地域内で循環構造を収め、地域の内発的な取組みとして実践していくことが非常に重要です。こうした構造を構築できないと、資金や利益配当は域外に流出していき、地域の効果は一定にとどまることになります。
また、収穫したら植える、育てるという森林の持続的な管理と、カスケード利用、すなわち良いものは製材として利用し、利用価値の低い木質資源はエネルギーとして利用していくといった原則が森林資源を活用する上では非常に重要です。
2.バイオマス発電システムの現状と小型CHP
導入されたバイオマス発電施設が増えたことにより、燃料材の需要が高まりました。
木質バイオマス発電が地域林業の振興、雇用の創出を下支えしていると言えます。
一方で、発電所の倒産、撤退が見られ始めているという実態もあります。国内の燃料のひっ迫により、ユーザーの利用状況に頼る発電所は厳しい経営を強いられています。
また北米等では原生林の木を切ってそのまま燃料として加工するなど、木質バイオマスのサステナビリティの問題が世界的に議論され、バイオマス発電設備そのものが否定的に捉えられている側面もあります。
こうした中、期待されているのが小型CHP(熱電併給)です。特にガス化発電は数10KW程度の極小規模の発電量のものもあり、注目されています。これまでの5MW規模の蒸気タービンは7万t/年程度の燃料が必要でしたが、小型CHPの場合はその1/10以下の燃料しか必要としません。また、排熱の利用についても蒸気タービンの場合は40℃程度の低い温度帯しか熱回収ができない一方、小型CHPは80-90℃の蒸気回収ができ、70%が有効排熱となるため優位性があります。
ただし小型CHPの導入には、厳しい燃料規格の遵守、投資回収の難しさ、年間設備利用率の低さ、長期のメンテナンス費用等の問題も抱えており、導入にあたっては収支計画の見極めも重要です。
3.木質バイオマスは電気よりも熱利用
木質バイオマスの場合、総エネルギーをより高効率で生かせるのは熱利用です。エネルギー=電気という一般的なイメージがありますが、最終エネルギー消費の過半は熱利用ですので熱エネルギーの脱炭素化が重要です。木質バイオマスの高温高圧という特性を生かした熱利用は高効率ですし、長期的に見ればコスト的にも回収可能で有利な再生可能エネルギーといえます。
バイオマス熱利用は燃料ベースで見ると非常に安い燃料となります。
また化石燃料に比べて価格安定性に優れていることも特長です。
バイオマスボイラーは、家庭用、産業用、大型、小型等、用途や規模に応じた様々な形態があります。
この中でも特に蓄熱タンクは非常に重要です。常に密閉されたタンクに熱を貯め、タンクの熱を熱交換器を使って温水利用、あるいは暖房利用されたりします。この蓄熱タンクを利用することにより、バイオマスボイラー機器そのものの規模を極力小さくし、全体のイニシャルコストを抑えることができます。さらに、もう一つの効果として、負荷追従性が向上することがあります。
4.地域におけるバイオマス熱利用
自治体における導入に際しては、地域構造を考え、燃料の集荷、原料の集荷から燃料の加工、設備の導入利用といったビジョンを作り上げ、需給ポテンシャルを押さえることが重要です。
バイオマス熱利用に転換できる施設、業態別にエネルギー消費量を把握し、サプライチェーンを構築し、安定的な燃料の調達ができる計画を立案します。 バイオマスの原料は様々ですが、その取扱いや条件により、稼働状況に大きな影響を及ぼします。バイオマスボイラの安定的な稼働には特に水分と形状の規格の遵守が非常に重要です。
バイオマスボイラーは、初期投資は高価ですが燃料代は安価であるため、ランニングコストを大幅に抑えることができます。長期的な累積コストを見ても、化石由来の燃料システムより安価になっています。
5.国内のバイオマスボイラの導入実態
日本国内のバイオマスボイラの導入は2000台弱で留まっています。これにはスキル・ノウハウの浸透不足、採算性の追求が不十分、地域にノウハウが定着してない等の理由が挙げられます。
欧州ではバイオマス熱利用が地域のビジネスになっており、林業家が協同組合を作ってチップ事業や地域熱供給事業に参画するなど、日本との差が見られます。
新しい熱エネルギービジネスモデルに「ESCO(Energy Service Company)」があり普及の一つの鍵と考えられています。
通常は需要家が自ら投資をしてボイラーを運用し、燃料調達も行うのですが、 ESCO事業の場合、エネルギー会社が需要家施設内にバイオマスボイラ及び熱電併給設備を設置・運用するため、需要家は設備投資や運用の負担をする必要がなく、熱を購入するだけでよくなります。
北海道下川町においては、バイオマスボイラーを行政主導で導入していますが、この運用を地域の協同組合が担い、ビジネスとしています。
また岩手県紫波町ではエネルギーステーションを作り、地域エネルギー会社がそのプラントに投資をして、公共施設、住宅、ホテル等に地域熱供給を行っています。
長崎県対馬市では、地元の林業事業体2社と、公共施設やプール、温泉にボイラーを導入し、運営管理して熱供給をする事業を行っています。
地域の会社と事業化し、徐々にノウハウを地域に内製化していくと共に、利益を地域に残す構図を作りながら運営しています。
熱供給事業は、このように地域の中で完結するように行政面でのサポートを行い、地域内でビジネスを育てていくことが必要です。
テーマ3 小水力発電 『地域で小水力発電を開発する方法』(一般社団法人小水力開発支援協会代表理事 中島大)
ポイント
- 小水力発電の検討の際は落差と流量が重要です。
- 地域の事業に育てるには、しっかりとした事業主体を選び作ることが必要。
1.小水力発電の仕組み
水力発電所は規模の大きさに関わらず河川から取水するという基本的な構造に違いはなく、河川から水を取り込むための取水堰・沈砂池を設置し、導水路で導いて水を水槽に貯め、水圧管で発電所に落水させ水車を回すことで発電させるものです。
取水した箇所から発電所を通過した水を河川に戻す箇所までの河川区間は水量が減少するため減水区間と呼びます。水力発電を導入する場合、この減水区間の環境上・利害関係上の影響を河川法などの法律が定める許容範囲内に収める必要があります。
出力を導く係数について、太陽光発電の場合は日射量、風力発電の場合は風速ですが、水力発電の場合は落差×流量×9.8(地球の重力加速度)×総合効率となるため、「落差×流量」が重要な指標となります 。
また左図のような旧来の建設方法から、現在では右の図の構造にした上で、水圧管路を道路埋設するケースが多くなっています。これは、樹脂菅が利用できるようになり、左図のような開放水路よりも樹脂菅を埋設する方が安価であるという理由によります。
小水力発電は電気設備、機械設備に着目されがちですが、取水設備(堰堤・ダム)、ゴミ取り設備(沈砂池・除塵機)、導水路、水槽(ヘッドタンク)、水圧管路、水車発電機、発電所建屋、放水路といった土木工事が建設費の6〜8割程度を占めます。
取水堰:取水設備はこのように堰を作って取水をします。水は低い方に流れるので、堰を作り、水面を上げます。
沈砂池:水に含まれている砂を沈めて除去するものです。水に砂が混じると水車の耐久性に影響します。
導水路:この場合は旧発電所の水路に蓋をかけて使用していますが、前述の通り近年は樹脂菅を道路に埋設するケースが多くなっています。
水槽(ヘッドタンク):開口部の開閉で水量を調整し、水車を制御します。
除塵機:水に浮かぶ落ち葉、枝、空き缶、ペットボトル等のゴミを集め、自動レーキで取除きます。
水圧管路
フランシス水車:規模に関わらず、世界で最も使用されているタイプの水車です。
2.自治体による地域小水力発電の促進・支援
<自治体による支援:長野県飯田市>
飯田市では地域主導で小水力発電を行うにあたり、市長が地域住民、自治会の発電事業を応援する、その建付けについて定めた条例である「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」(地域環境権条例)を策定し、認可地縁団体による発電事業支援を行っています。
第1号案件については運転開始に至っていません。費用の問題のみならず、事業主体が存在しない状態で事業そのものを組立てるハードルは非常に高く、基本的に事業主体があるという前提、もしくは先に事業主体をつくって事業を行うスキームが必要だと感じます。
第2号案件は市民発電というSPC(特別目的会社)を構築、事業主体となる体制として稼働に至っています。太陽光からスタートした地域電力会社であるおひさま進歩エネルギー株式会社が運営を受託するという形で、実質的な事業主体となっています。
<自治体による支援:山形県>
山形県では砂防ダムの発電利用に関する情報公開に際し、地域企業を優先できない課題をクリアするため、自治体・地元企業を集めた勉強会を行い、地元企業による小水力発電の開発を進めました。ダム直下ではなく、導水路を引き、発電所を下流に建設して出力を上げ、経済性を高めるという方向で計画が進んでいます。
<市町村営+地域起業:岡山県西粟倉村>
岡山県西粟倉村は、森林率9割という地域性から木質バイオマスに力を入れてきました。しかし小水力発電においても、100億円の企業誘致より1億円のローカルベンチャー100社を作るという理念のもと、ローカルベンチャーを育成しながら地域の経済性を高めています。
3.分析ツール
環境省の分析ツール、再生可能エネルギー情報システムでは中小水力分析ツールを公開しており、専門家のサポートがあれば、こうしたデータを活用した計画づくりが可能です。
図上調査の例
現地調査、精度の検査、流量観測、地形測量、地質調査、系統接続検討、事業性評価(FS)といったステップを踏んで計画を実現していきます。
テーマ4 バイオガス活用 『社会資本に発展するバイオガス事業』(バイオマスリサーチ株式会社 代表取締役社長 菊池貞雄)
ポイント
- バイオガス事業は、脱炭素によるまちづくりと地域の持続可能な農業・畜産業を同時実現できる手法
- 売電収益だけではなく廃棄物処理コスト減、労務時間減少、Co2削減にも寄与する手法。
- 地域経済循環の観点から、地域で建設し地域でメンテナンスする仕組みづくりが重要。
1.バイオガス事業の背景
バイオガス事業は、脱炭素によるまちづくりと地域の持続可能な農業・畜産業を同時実現できる手法です。
畜産業においては、家畜の頭数の増加とそれに伴う臭気問題、労働負荷の増大、水や大気がアンモニアその他で汚染されるという課題が山積しています。
解決策として、搾乳ロボットや給餌の自動化、糞尿の自動処理等といった従来の手法だけでなく、昨今では糞尿の自動処理の行程でバイオガスを作り、ガスや肥料に転換して収益化を目指し、現在では肥料コストの削減、エネルギー使用量の削減、労働を省力化して有機プラントを作る「バイオガス事業」活動が拡大しています。
バイオガス事業は、バイオガスプラントによる営農コストの削減、自治体が管理する地域一般廃棄物の連携収益確保、耕種農業と連携した肥料供給、オーガニックブランドの確立等が実現されます。
地域内で永続できる経済性ある畜産業を成立させさせられるとともに、後継者が帰ってきたくなるまちづくりができる手法です。
生ゴミや糞尿から発電した電気は地域で消費し、作られた肥料は地域で使うという考え方は、売電という言葉がなかったバイオマス研究会立ち上げ当初から共通しています。
乳牛は1頭当たり65kg/日の糞尿を排出しますが、それはバイオガス2m3、カセットボンベ3本に相当します。これをエネルギー源とするのがバイオガス事業の考え方です。
2.営農・肥料・環境保全−バイオガスに対する期待
この40年間で、日本の乳用牛頭数が横ばいのまま酪農家数は1/3に減少し、酪農家1戸あたりの乳牛の頭数および糞尿量が3倍になりました。(グラフ参照)。
北海道は1戸あたりの乳用牛頭数が140頭に達し、非常に大きな労力を強いられています。
こうした背景からも、バイオガス等の自動化と事業収益増加が地域の酪農家にとって非常に重要な課題となっています。
上記背景を踏まえ、農林水産省は「みどりの食糧システム戦略」を打ち出しました。
これは化学肥料の利用を3割削減、有機農業を全農地の25%、100万ヘクタールに拡大しようとする戦略です。
北海道では、オーガニック認定を受けられる可能性のある消化液(バイオガスによって生まれた肥料)が3500t/日もあります。肥料価格の単価を3,000円と設定すると約40億円、約100基のプラントの稼働に相当する量です。
一方で、この量は前述の全農地の25%、100万ヘクタールのうちの半分にも満たない量ですので、需要や開発の余地が見込める状況です。
3.失敗しないバイオガスの進め方
宮崎県で4年間稼働している250頭規模の酪農家における事例に基づき、バイオガス事業導入による経済効果をご紹介します。
バイオガス事業導入前の糞尿処理費は1,250万円程度でした(糞尿処理費を牛1頭当たり約5万円と計算した場合)。
バイオガスプラントを約2億5千万円で建設し、導入経費は約1,600万円/年となりましたが、売電による収入は約1,500万円、労務時間が4〜5時間削減したことで搾乳量を増産でき、オガ粉や化学肥料から自給飼料に転換した差益や増頭により、酪農事業そのものが3,430万円の増収となりました。
バイオガス推進によって事業収益が増加し、労務時間も減少し、営農の保全に大きく貢献できるということが分かりやすい事例です。
バイオガス事業が効果をもたらすのは畜産業を主産業とする地域だけではありません。
どの地域でもごみが発生しますが、特に生ごみは水分量が多くて大変焼却しにくいことで有名です。
北海道興部町では、生ごみを含む有機廃棄物や下水道汚泥をバイオガスプラントで処理し、年間2,000万円程度のコスト削減効果がありました。
九州のとある自治体では、産業残渣や家庭の生ごみの処理コストが年間約3,000万円発生していました。
3,000万円の投資でバイオガスプラントを投入した結果、
償却費 約3,000万円、肥料 約2,847万円、売電 約2,900万円(FIT価格39円と仮定)を合わせた総計9,000万円弱の経済効果を生み出すことに成功しました。
バイオガスプラントは、売電だけでなく、地域で生産された液肥と敷料を地域で利用することにより地域にメリットをもたらすことができる構造となっています。
バイオマスプラント建設にあたっては、地域経済循環の観点から、地域で建設し地域でメンテナンスする仕組みづくりが重要です。
バイオガスプラントの建設実績がなくても、地域の建設事業者がメンテナンスし続けられるように育成していくことをお勧めします。
4.バイオガスのメリット ~地域有機廃棄物処理の社会基盤として~
ご紹介のとおり、バイオガス事業は地域産業と経済の持続可能性にメリットをもたらす手法ですが、脱炭素実現への需要が増すなか、CO2削減効果への期待も高まっています。
試算によると、バイオガス事業導入によって削減できるCO2量の指標として、搾乳牛1頭あたり電力1,945 kWh/年、電力代替CO2削減量は 1,160kg-CO2/年、搾乳牛1頭あたり消化液 23.7t/年、化学肥料代替CO2削減量は 630kg-CO2/年とされています。
CO2排出クレジット1万円/tに対し、牛1頭で1万7000円/tのCO2排出クレジットに相当することになります。
バイオガス事業は、地域振興の可能性を数多く有しています。
自然環境保全、河川環境保全、居住環境の快適化、家畜糞尿処理労働の軽減、臭気の低減、ゼロカーボン電力、障がい者・母子家庭・高齢者雇用、消化液利用・有機農業・IoT技術とスマート農業、六次化(食品加工)、新規就農、地産地消、コスト削減・高付加価値化、農村ツーリズムの拡大等など、バイオガス事業から地域づくりの一歩を始めてみてはいかがでしょうか。