令和6年度地域脱炭素実現に向けた中核人材の確保・育成委託業務

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第2回 実行計画(区域施策編)作成の留意点

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テーマ1 実行計画(区域施策編)策定の基礎知識~3つの失敗をしないために~
(一般社団法人ローカルグッド創成支援機構事務局長 稲垣憲治)

一般社団法人ローカルグッド創成支援機構事務局長の稲垣憲治氏からは、「実行計画(区域施策編)策定の基礎知識~3つの失敗をしないために~」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。

ポイント

  • やめよう、計画つくる「だけ」
  • 地域に合う施策を実行しよう!

地球温暖化対策実行計画(区域施策編)

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今回のテーマ「実行計画」は、すべての自治体に義務付けられている業務事務事業編と、都道府県、政令指定都市、中核市に義務付けられている区域施策編が含まれます。今回は、区域施策編に焦点を当てます。

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 脱炭素は街づくりの一環として、望ましい地域の将来像から検討を始めることが重要です。脱炭素が地域経済の循環やレジリエンス向上、競争力強化、課題解決につながることを実行計画に明記し、エコのためだけでなく街づくりのために行うことを念頭におき考えていく必要があります。

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 標準的な実行計画(区域施策編)は、「区域施策編策定の基本的事項・背景・意義」「温室効果ガス排出量の推計・要因分析」「目標」「温室効果ガス削減に関する対策・施策」「地域脱炭素化促進事業に関する内容」「区域施策編の実施及び進捗管理」で構成されることが多いです。このうち、「温室効果ガス削減に関する対策・施策」の項目に時間を掛けることが大切です。
実行計画の策定にあたっては、頑張って精緻にCO2推計して、CO2排出量が100から120に変わったとしても、具体的な対策はあまり変わりません。したがって、CO2推計に力を入れるよりも、施策の検討に時間をかけることが重要です。

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計画づくりは重要ですが、実際の脱炭素事業の実施に力を入れてほしいと考えています。そのため、事業実施を想定して計画を作ることが必要となります。

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 計画を作る際には、具体的にいつまでに何をやるかを明確に書くことが重要です。例えば、「いつまでにオンサイトPPAを何施設で実施する」や「省エネ診断を何年までに何施設で行う」など、期限と具体的な数値を含めて計画を立てることが求められます。抽象的な文言ではなく、具体的な行動計画を示してください。

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 計画策定はできるだけ省力化し、実際の脱炭素事業に注力することが重要です。例えば、事務事業編と区域施策編を一体化して策定したり、他の行政計画と一緒に作成したり、近隣自治体と共同策定することも可能です。既存の広域連携の枠組みを活用しながら共同策定することで、計画策定の業務負荷を減らし、実際の脱炭素事業に注力しましょう。

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 実務的に重要となるのは、コンサルに委託する際に、意味のある検討をしてもらうことです。多くの場合、実行計画の策定はコンサルに委託されていますが、排出量推計に時間とお金をかけすぎるのはもったいないと感じます。環境省のツールやマニュアルを活用して調査を省力化し、コピペで対応できる部分は効率化しましょう。
 その分、実際の脱炭素事業の検討に注力することが重要です。例えば、公共施設への太陽光パネル設置であれば、設置可能量をしっかり算出したり、木質バイオマスであれば材の供給可能量や発電機の検討、採算性などです。具体的に仕様書に記載することも重要です。
 脱炭素事業の具体的な検討に時間を使うことで、地域に適した具体的な対策が可能になります。これが、CO2削減に向けた実際の行動に結びつく重要なポイントです。

部門別 脱炭素施策事例

ここからは脱炭素施策についてご紹介します。

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 家庭部門の施策例としては、ZEH(ゼロエネルギー住宅)補助、既存住宅の省エネ改修補助(窓断熱など)、省エネ家電の買い替え補助金、太陽光発電や再エネ電気の共同購入もあります。
 運輸部門では公用車の電動化、EVカーシェアリング、EV・FCV等の推進、充電インフラの拡充、エコドライブの推進、などがあります。
 業務部門では省エネ診断や省エネ機器導入補助、再エネ導入補助、再エネ電力への切り替え推進、新築時の高い省エネ性能の検討義務などがあります。
 産業部門では既築建物への省エネ診断、省エネ機器導入補助、再エネ設備導入補助、再エネ電力への切り替え推進、電化率の向上、イノベーション開発(水素等)などがあります。
 住民や事業者に対して施策を伝える際には、「脱炭素のため」だけではあまり刺さらないため、他のメリットをしっかりと訴求しましょう。

個別施策ピックアップ

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 公共施設へのオンサイトPPAは、現在注目されている太陽光発電の設置方法です。
太陽光発電を設置できるスペースの一定規模以上あり、自家消費率が一定以上ある(余剰電力が少ない)場合にPPA事業者の採算性が良くなることを押さえておきましょう。
また、自治体での設置メリットとして、オンサイトPPAの最大のメリットは、環境課と施設管理課の関係悪化を防ぐ手段にもなりうることです。自前設置の場合、環境課が太陽光発電を設置し、施設管理課がメンテナンスするため、月日が経つとメンテナンスが滞り、両課の関係が悪化することがありました。オンサイトPPAでは事業者がメンテナンスを行うため、この問題を回避できます。

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 取り組みに対する他部署からの反対に、実務上お困りの方も多いでしょう。
 反対意見の真の理由を聞きだし、その相手部署のメリットを提示するなどができると進みやすいです。

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普及啓発事業は、他のイベントとの共同実施が効果的です。特に子供向けイベントで、親子で学べるものが良いでしょう。効果的なグッズを用意し、参加者を集めることも重要です。また、ノウハウを記録し、部署移動後も継承することで組織的な知識を蓄積してください。各都道府県の温暖化防止活動推進センターと連携し、普及啓発グッズを活用すると良いです。

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自治体が連携する地域新電力は全国で100以上ありますが、市場環境が厳しくなっているため、慎重な検討が必要です。やる気のある地域企業やガス会社がある場合は推奨しますが、そうでなければ慎重になった方が良いでしょう。

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 これまでご紹介した通り、脱炭素に関する施策は非常に多種多様です。
自治体が行う脱炭素事業のおすすめ優先順位としては、まずは公共施設の省エネ(特に新築のエネルギー性能向上)、そして公共施設の屋根への太陽光発電設置、続いて地域特性に合った様々な施策の順となります。
 また、どうしても中長期的な取組になってしまいますが、交通分野等との連携による脱炭素施策もとても重要です。地域特性に合わせて効果の高い施策を優先的に取り組むことが大切です。

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繰り返しになりますが、計画を作るだけではなく、実際に地域にある施策を実行することに時間と努力をかけることが重要です。

テーマ2 CO2排出量の推計はこうすればできる
(株式会社E-konzal 主任研究員 越智雄輝)

第2回セミナーに登壇した株式会社E-konzal 主任研究員 越智雄輝からは、「CO2排出量の推計はこうすればできる」をテーマにお話をいただきました。
以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。

ポイント

  • カーボンニュートラル実現の第一歩として、現状の排出量とその構造の把握が必要
  • 一から自治体が推計する必要はなく、排出量把握におけるデータベースを有効活用すべき
  • 区域施策編の削減目標の設定においては、2013年度を基準年度として2030年度を目標年度に設定するのが基本
  • 区域施策編では、削減目標に加えて再エネ導入目標の設定が求められるが、再エネ導入目標の検討に活用できるツールもある
  • 地域のビジョンと排出量推計に基づくシナリオの分析も重要
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 自分たちで排出量を「推計」しなくとも、既に環境省等の機関が公開しているデータベースを利用できます。そのため、推計には時間をかけず、施策の検討に時間と労力をかけるべきです。ただし、推計の考え方の理解は必要になってきます。

脱炭素の実現に向けたステップ

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脱炭素を計画的に進めるためには、現在の排出量と将来の排出量の2種類の推計を行うことが必要になります。自治体の現時点での排出量を産業部門、民生部門、運輸部門ごとに分析し、地域の排出構造を把握することが必要です。これにより、将来の排出量の増減を予測し、効果的な削減対策を策定することができます。
また、温室効果ガスの排出量は、工場や自動車などすべての排出源から直接測定することができません。大気中のCO2濃度は過去の排出が蓄積され、また地域の境界を越えて拡散するため、濃度を測定してもその地域の排出量を正確に把握することは困難です。したがって、入手可能な統計データを用いて排出量を推計することが必要となります。

地域の排出量の推計方法

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地域の排出量の推計方法については、環境省の「地方公共団体実行計画(区域施策編)策定・実施マニュアル(算定手法編)」に詳述されています。詳細な方法では区域の実績値を使用し、簡易な方法では国や都道府県のデータを用います。正確な把握には詳細な方法が望ましいですが、まずは簡易な方法で区域の排出量の傾向を把握していきましょう。簡易な方法で推計されたデータベースも既に存在しています。
まず、現在の排出量推計についてです。ざっくり言うと、区域の実績値を用いる詳細な方法と、国や都道府県のデータを用いる簡易な方法があります。どちらにもメリット・デメリットがあります。
 詳細な方法は、事業者へのヒアリング等を行うことで正確な排出量が分かる一方、非常に手間がかかります。また、必ずしもすべての事業者からデータを得られるとは限りません。
他方、簡易な方法は、全国や都道府県の排出量を部門ごとに活動量で按分することで、比較的簡単に算定できます。ただし、按分で計算しているため、その区域独自の対策の効果が反映されにくいというデメリットがあります。
 詳細な方法で正確な排出量を把握するに越したことはありませんが、これから始めるという地域においては、まずは簡易な方法で区域の傾向を掴むことが大事です。簡易な方法については、環境省やGoogle、イー・コンザルなどが無料で提供しているツールを使って算定することができます。環境省の「部門別CO2排出量の現況推計」は全国や都道府県の炭素排出量を部門別に活動量で案分することで推計されており、全市区町村の部門別排出量を年度ごとに一括ダウンロードできるのが特徴となっています。また、「自治体排出量カルテ」は各市区町村の排出量に関する情報を包括的に整理した資料となっており、「部門別CO2排出量の現況推計」の結果に加えて按分の算定に使われている活動量など、より細かな情報を得ることができます。自地域に排出量の大きい事業所がある場合、国や都道府県のデータの按分で計算された「部門別CO2排出量の現況推計」では、データと自地域における実際の排出量について誤差が出てしまいますが、「自治体排出量カルテ」に掲載されている事業所排出量を参照することでどの程度誤差があるのかについても確認することができます。
Googleが提供している「(EIE)Environmental Insights Explorer」では、Googleマップ等Googleが保有するデータを活用して、世界の都市の排出量が推計されています。交通データに関して詳細な情報が得られるのがEIEの特徴であり、自治体からの依頼に応じてデータを無償で公開しています。イー・コンザルなどが無料で提供する「地域 E-CO2 ライブラリー」は環境省の区域施策編マニュアルに基づき全市区町村のエネルギー消費量とCO2排出量を推計しています。各市区町村のレポートを無料でダウンロードすることができ、CO2排出量に」加えてエネルギー消費量についても情報が得られることが特徴となっています。

■排出量を算定するツール
・環境省「部門別CO2排出量の現況推計」
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/suikei.html
・環境省「自治体排出量カルテ」
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/karte.html
・Google「(EIE)Environmental Insights Explorer」
https://insights.sustainability.google/
・ E-konzal「地域 E-CO2 ライブラリー」
https://www.e-konzal.co.jp/e-co2/

■活用例:自治体排出量カルテ

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部門別の排出量だけでなく、他の自治体との比較や、FIT/FIP制度における再エネ導入量、人口・自動車保有台数などの活動量指標も知ることができます。例えば、排出量の推移と活動量の推移を比較し、排出量低下/上昇の原因を推測することが可能です。また、再エネポテンシャルと実際の導入量の比較も可能です。様々な指標を分析し、政策検討に活用しましょう。

■活用例:REPOS

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「自治体排出量カルテ」より詳細な情報が掲載されているのが「REPOS」です。地域の再エネポテンシャルをマップ等で確認することができます。「再エネ情報カルテ」では、建物種別毎の導入ポテンシャル等の情報を詳細に得ることができます。例えば、「排出量カルテ」で大枠を把握し目星をつけた後、REPOSで将来的なポテンシャルを詳細に検討する、といった使い方が可能です。
*REPOSにおける再エネポテンシャルの定義

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全自然エネルギーのうち、法令、土地用途、技術等の制約を考慮して、実現可能と思われる量を指します。実際の導入にあたっては、自治体レベルでの条例等、更なる制約も考慮する必要があります。

区域施策編における目標設定の考え方

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温室効果ガス排出量の削減目標設定について、自治体は国の目標を踏まえて行います。標準的な設定方法として、2013年度を基準年度とし、2030年度を目標年度とするのが一般的です。さらに、長期的な視野で削減を目指す場合は、2050年度の目標も設定します。
再エネ導入目標の設定について、2021年の法改正により区域施策の中で設定が求められています。基本的には、長期的なポテンシャルを最大限活用する形で、設備容量(kW)をエネルギーの種類ごとに設定することが望ましいです。区域全体の目標と同様に、長期目標(2050年)と中期目標(2030年)を検討します。長期目標では技術的な制約が減る可能性があるため、最大限のポテンシャルを目指し、中期目標では現実的な導入状況を踏まえた設定が必要です。
再エネ導入目標の検討に使えるデータは、情報公表サイトで入手可能です。将来のポテンシャルについてはD-Posで利用でき、詳細なデータは各出展の大元で確認していただきます。目標や指標については、環境省のマニュアルに具体例が掲載されています。データの取得方法もマニュアルに記載されているため、参考にしてください。

カーボンニュートラル実現に向けた考え方

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 2050年の社会に向けては、魅力的でカーボンゼロを達成するビジョンと、具体的な定量的将来推計の両方が重要です。ビジョンは、カーボンゼロを満たしつつ、様々な人々にとって魅力的でイメージしやすい社会を描くことが大事です。

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カーボンニュートラルの実現には、ガス燃料の使用を避け、再エネや省エネを基本にした戦略が必要です。まず、省エネによってエネルギー使用量を削減し、残ったエネルギー需要には電気を使用して電気の利用率を拡大します。さらに、その電気も再エネで作ったものに変え、電気の利用が難しい部分では再エネの熱を活用します。どうしても削減しきれないCO2は、森林やCCS(炭素回収・貯留)によって吸収・固定します。
ロックインの回避も考慮すべき重要な点です。短期的にCO2削減効果がある対策でも、長期的には脱炭素に逆行する可能性があります。例えば、高効率ガス給湯器やハイブリッド自動車は現時点ではCO2削減に寄与しますが、2050年にはこれらの技術が化石燃料からの脱却に妨げとなる可能性があります。従って、これらの技術や設備が2050年までにどのように脱炭素に貢献できるかを逆算して計画を立てる必要があります。
特に住宅やインフラに関しては、長期間使用されるため、将来を見据えて早めに計画し、ロックインのリスクを回避することが重要です。例えば、現在新築されている住宅は多くが2050年時点でも使用されることが想定されるため、今から脱炭素を見据えた住宅づくりを進めていく必要があります。

目標設定・ビジョン事例

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京都市の地球温暖化対策計画では、省エネの加速と再エネの飛躍的な拡大を整合的に分析し、それぞれに具体的な削減目標を設定しています。その他大阪府能勢町は、バックキャスティングの手法を用いて、2030年に向けて省エネと再エネの目標を設定しています。簡易な計算を通じて、将来の削減目標を明確にしています。川崎市は、現在の排出構造を分析し、熱エネルギーの使用が大きいことから、その電化推進に力を入れています。最終的に2050年までにカーボンゼロを達成する方針を示しています。
滋賀県長浜市は、脱炭素を地域作りのビジョンに組み込み、教育、農業、福祉などの分野と連携し、地域全体の発展を目指しています。脱炭素そのものだけでなく、地域の質の向上を重視しています。
静岡市は、国や県の目標を超える50%の削減目標を設定しています。この目標設定の理由には、グリーン産業の創出やエネルギーの循環を通じた地域経済の活性化が含まれています。単なるCO2削減にとどまらず、地域の経済にも貢献しようとしています。

■ビジョン事例参考
出典: 京都市(2021)「京都市地球温暖化対策計画<2021-2030>」https://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/page/0000324690.html
出典: 能勢町(2021)「能勢町地球温暖化対策実行計画」 http://www.town.nose.osaka.jp/material/files/group/1/ondankataisakukeikaku.pdf
出典: 川崎市(2022)「川崎市地球温暖化対策推進基本計画」 https://www.city.kawasaki.jp/300/page/0000133741.html
出典: 長浜市(2023)「ながはまゼロカーボンビジョン2050」 https://www.city.nagahama.lg.jp/cmsfiles/contents/0000012/12175/vision2050.pdf
出典: 静岡市(2023)「第3次静岡市地球温暖化対策実行計画」 https://www.city.shizuoka.lg.jp/s2835/s001529.html

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2050年カーボンニュートラル実現に向け、まずは現状の排出量と構造を把握することが重要です。ただし既存のデータベースを活用して排出量の把握を省力化し、施策の検討に注力しましょう。削減目標は国の目標を踏まえ、2013年度を基準に2030年度を目標とするのが基本です。再エネ導入目標の設定も必要で、ツールが活用できます。長期的視点から、ロックインを回避するために、地域ビジョンと排出量推計に基づくシナリオ分析も大切です。

テーマ3 区域施策編策定事例(人口5万人未満)
(瀬戸内市市役所 環境部 生活環境課 主査 坪本美希)

第2回セミナーに登壇した瀬戸内市市役所 環境部 生活環境課 主査 坪本美希氏からは、「区域施策編策定事例(人口5万人未満)」をテーマにお話をいただきました。
以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。

ポイント

  • 小規模自治体での計画策定の実務のポイント
  • 国の人材派遣事業の活用の留意点
  • 小規模自治体が脱炭素に向けて何ができるか
  • 庁内連携での反省点
  • 地域事業者連携でのポイント、留意点

瀬戸内市の環境の目指す姿

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瀬戸内市は令和3年度に第二次瀬戸内市環境基本計画を改訂し脱炭素の取り組みを始めました。
瀬戸内市は目指す姿として「豊かな自然と快適な暮らしが調和するまち」を掲げ、その実現に向けて、自然、食、教育、防災、健康、福祉、交通、産業など幅広い分野での取り組みを検討しました。しかし、十分に取り組めていない分野を推進するには財源が必要であり、経済を回し、お金を生み出す仕組みがなければ目標達成は困難であるという結論に至りました。

跡地を活かすために

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瀬戸内市には錦海塩田跡地を活用した成功事例があります。この約500ヘクタールの海沿いの跡地は、製塩が終了した後もポンプで海水を排出しなければ浸水してしまうため、市が管理する必要がありました。市は事業者に跡地の貸付を行い、事業者は日本最大級の235MWの太陽光発電事業を開始しました。
さらに、安全安心事業として事業者が堤防の補強を行い、最大クラスの津波対策も実施しました。パネル設置により、市は土地の貸付収入を得ており、その収入のうち約60.5億円を跡地維持管理費に充て、残りの約40億円をまちづくりに活用しています。
【まちづくり例】活力ある学校づくり、まちの玄関となる駅前の整備、出産・子育て支援 など
錦海塩田跡地事業の成功を生かし、瀬戸内市は「太陽光発電を軸としたゼロカーボンの取組(経済×社会×環境)」をまちづくりの中心に添え、脱炭素化を推進することにしました。

環境基本計画の改訂で感じたこと

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瀬戸内市では、環境分野にこだわらず、まちの将来像を描くために各分野の職員が参加しました。特に市出身の若手職員が多く、地域への理解を深めることができました。コンサルタントに委託するだけでは得られない成果であり、職員自身が計画を考え、作り上げることで愛着が生まれ、この計画が今後のまちづくりに活かされると感じました。
一方で、計画の全てを職員だけで策定することは難しいため、国の人材派遣制度を活用し、外部の視点を取り入れながら計画を策定しました。

ゼロカーボンシティの実現に向けて

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瀬戸内市はゼロカーボンシティの実現に向け、エネルギー発電の利活用促進に取り組んでいます。令和4年4月には環境省の交付金重点対策加速化事業に応募し、新たな補助金制度を設立しました。令和5年度からは市民向けの補助制度を実施し、今年度からは事業者向けの補助制度も実施しています。

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重点対策加速化事業で再エネ導入のための市民・事業者向けの補助金制度を設立し、周知と財源確保を進めました。しかし、これだけでは十分ではないと考え、地域住民や市内事業者との対話を深めつつ、住みやすい地域づくりを考えました。 邑久町漁業協同組合の協力を得て、玉津地区及び裳掛地区を対象に再エネ電力とチップの熱利用を柱とする計画を立て、令和5年4月に脱炭素先行地域づくり事業に選定されました。

区域施策編の全体像

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令和5年度に地球温暖化対策実行計画の区域施策編と事務事業編を同時に見直し、それぞれ別の冊子として発行しました。
現況推計は安分法を活用していますが、産業部門の製造業に関しては地域特性を考慮して事業所のCO2排出量を積み上げて算出しました。
2030年のCO2削減目標を50%に設定し、更に事務事業編ではネットゼロを目標にしています。再エネの導入目標については、実行計画と施策を通じて更に拡大していく計画です。
2040年には市内全域の脱炭素を実現するというチャレンジングな目標を立てています。
また、積極的に再エネを導入する事業者や市民を支援するために、国の補助事業の対象になりやすくする脱炭素促進区域を設定しました。この促進区域は提案型とし、事業者や市民からの提案にも柔軟に対応できるようにしました。

まとめとして担当者のかかわった実感

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小規模自治体での実務のポイントは、「やらされる」というよりは、貴重な機会として担当者の思いや自治体の特性を反映させられるチャンスと捉えることです。自分ごととして取り組むことで、わかりやすく、面白いプロジェクトにすることができます。また、コンサルタントを上手に活用し、自治体に適した施策や可能な範囲を一緒に議論できる環境を整えることが重要です。
国の人材派遣制度を活用する際は、自分たちのビジョンを明確に持ち、具体的な依頼をすることが大切です。小規模自治体が脱炭素に向けてできる選択肢はほぼ決まっていますが、それを自分の地域でどう実現するかが重要です。
現在、瀬戸内市では地域電力会社を設立し、再エネの地域内循環を目指していますが、色々と難しい部分があることも実感しています。しかし、地域の方々と話し合いながら計画を策定することは、新しい視点を取り入れ、より良い取組を考える良い機会となります。

テーマ4 区域施策編策定事例(人口約40万人)
(岡崎市 ゼロカーボンシティ推進課 係長 植村 信幸)

第2回セミナーに登壇した岡崎市ゼロカーボンシティ推進課 係長 植村 信幸氏からは、「区域施策編策定事例(人口約40万人)」をテーマにお話をいただきました。 以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。

ポイント

  • 区域施策編の改訂におけるアクション
  • 公共施設PPA導入の手法や課題等
  • EVカーシェア導入に向けた取り組み

区域施策編の改定

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 岡崎市では現行計画の進捗状況や脱炭素に向けた社会的要請等を踏まえ、4つの「基本的な考え方」に基づきつつ、重点施策を見直す形で区域施策編を改訂しました。
 新計画では、2030年度の削減目標を50%に引き上げ(現状26%)、新たに再エネ導入目標を2030年度196MWとして設定しました。

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 上記は、市内の現況のエネルギー消費量や、温室効果ガスの排出量の推計方法や、再生可能エネルギーの導入状況の把握方法です。
 岡崎市ではコンサル会社と連携し、作業量の多い推計を実施しましたが、稲垣講師・越智講師の仰る通り、計画より実行に労力を注ぎ込むという観点からは、ここまでの精度は不要であったかと振り返っております。

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上記、再生可能エネルギーの種類ごとの導入ポテンシャル量の把握方法については、環境省の「REPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)」等を用いて推計を出しています。

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 再生可能エネルギー導入目標の設定は、固定価格買取制度において認定されている再生可能エネルギー設備のうち、未稼働(計画中)のものに、国の「第6次エネルギー基本計画」の基礎資料となっている「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」での稼働割合の想定を乗じて推計しました。
 岡崎市における再生可能エネルギーの導入目標は、2050年度にゼロを目指していく逆算のもと2020年度:117MB、2030 年度:196MB、2050年度:471MBと目標を設定しています。

プロセスを経て完成した区域施策編(概要)

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本計画で目指す将来像は「へらす・つくる・ためる脱炭素」とし、エネルギーを減らすための省エネ、エネルギーを作る再エネ、貯める(調整する)エネルギーという形でゼロカーボンシティを目指す方針に改定しました。

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 区域施策編の改定に伴い、事務事業編も合わせて改定しました。
「政府実行計画」や改定した「岡崎市の区域施策編」に合わせて、太陽光発電の導入等の取り組みに関する重点目標を、それぞれ数値を入れられるものは数値を入れて設定しました。

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 上記資料赤枠は、事務事業編の改定で削減目標について、コークスによる影響を除いた廃棄物抑制を2030年までに51%削減を目指す形で設定していることを示しています。

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 岡崎市は脱炭素先行地域に選定され、脱炭素先行地域作り事業の概要がホームページに掲載されています。
 主な内容としては、中心市街地にオフサイトで発電した電気を地域新電力である「岡崎さくら電力」を通じて供給し、民生部門の消費電力をゼロにする取り組みを行っています。
 電力以外の部分ではカーシェアリングやグリーンスローの導入も進めています。また、岡崎市には三菱自動車工業の岡崎製作所があり、愛知県と三菱自動車工業との共同提案によりこれらの取り組みを進めています。

公共施設PPA導入に向けて

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 これらの取り組みの中で、PPA(電力販売契約)について説明します。
どこにだれがどの手法を用いて設置していくのか等を整理しました。
 コストの平準化を図るため、既存で支払っている電気代を維持して、新たな予算措置が不要なPPAが最適であるという判断に至りました。
 選定方法として、2022年に市公共施設(ハコモノ)に対するポテンシャル調査を実施し、スクリーニングから170施設に絞り込んだうえで対象施設を選定しました。
また、各手法(PPA、リース等)のメリット・デメリットを記載しながら、岡崎市ではコストの平準化を最優先とし、基本的にはPPA方式を導入する方針を採用しています。
且つ、岡崎さくら電力があるため、オンサイト・オフサイトに関わらず、一旦岡崎さくら電力に電気を流してから買うという手法をとっています。

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公共施設PPA導入方針ですが、
・PPA方式やリース方式を優先的に検討し、太陽光発電設備の導入を進める
・公共施設の活用や撤去に制限がかかることを考慮しつつ、目標達成に向けた積極的な取り組みを推進
 この大きく2つの点を庁内会議で諮り決定しました。
 決定を受けてPPA導入する段階において、防水はどう対応するか、やキュービクル等の設備納入遅延が起きた場合は補助金をいかに充当するか等、導入段階に進んでくると、パネル1枚乗せるだけでも多々課題が生じたので、非常に苦労をしました。

EVカーシェア導入に向けて

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 岡崎市では、EVのカーシェアリングを68台リースで導入する計画を進めています。
 基本方針として、脱炭素な生活様式への転換促進、市の事務・事業による温室効果ガスの削減、再生可能エネルギーの活用、地域経済の活性化、GX(グリーントランスフォーメーション)及びDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を基本方針としています。
 現在、岡崎市には消防車などを含め約800台の車両があり、市の庁舎の駐車場には約100台あり、この中の68台をEVに入れ替える取り組みを推進しています。
 GXやDXを活用して適正台数の把握や予約利用の効率化を図り、最終的には全てリースにして、人・物・お金を新たな公共サービスとして展開するために取り組みを開始しています。

民間事業者との関係構築

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 岡崎市では、民間事業者との関係構築を重視し、公民連携を強化しています。
 企画課主導のもとでプラットフォームを用意し、2023年には脱炭素をテーマにビジネスマッチングを開催しました。また、平成の時代から立ち上げた岡崎スマートコミュニティ推進協議会も活用し、様々な事業者と協力して脱炭素を推進するビジネスモデルの実現を目指しています。

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 岡崎市では、町内組織としてゼロカーボン推進本部を設置し、各部長が参加しています。岡崎市の特徴として、脱炭素推進アドバイザーとして岐阜大学 浅野先生と一般社団法人ローカルグッド創成支援機構 稲垣さんの2名を迎えています。
 さらに、岡崎スマートコミュニティ推進協議会の会長には早稲田大学 小野田先生にご就任いただき、上記記載の体制で脱炭素の推進に取り組んでいます。

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 岡崎市は2024年度7月1日から「岡崎市脱炭素社会の実現に向けた気候変動対策推進条例」を施行し、市の責務、事業者及び市民の責務も明確にしました。気候変動緩和策と適応策の推進を掲げており、今後はこの条例に基づいて温暖化対策計画を策定し、実行に移して参ります。