第5回 再エネ導入の壁を乗り越えるために
テーマ1 再エネの事業性の評価・資金調達(株式会社脱炭素化支援機構(JICN)執行役員 事業推進第二部長 柿田浩之)
株式会社 脱炭素化支援機構の柿田浩之氏からは、「再エネ開発事業の事業性評価と資金調達」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- 再エネ事業の事業性評価では、評価の低い項目について対応し、資金調達へ反映させることが必要である。
- 再エネ事業における資金調達では、プロジェクトそのもののリスク・収益に依存し、長期的ファイナンスが可能なプロジェクトファイナンス手法が有効である。
- プロジェクトのスキームをしっかり構築するため、早い段階で金融機関と相談する。
㈱脱炭素化支援機構について
国の財政投融資からの出資と民間からの出資からなる資本金を活用して、脱炭素に資する多種多様な事業に対する資金供給などの活動を行う組織です。
再エネ開発事業の事業性評価
再エネには太陽光発電、風力発電、小水力発電、地熱発電、バイオマスが含まれます。それぞれの特徴は以下の通りです。
再エネ開発事業の事業性評価は、事業者・関係当事者、技術・建設、操業・燃料調達、キャッシュフローなどを考慮する必要があります。事業性評価のために情報を収集し、以下のようなシートの作成が求められます。
さて、集めた情報をベースに、次のように評価をしていきます。
プロジェクトの背景・・・本プロジェクトを起案・推進するにあたった背景を確認します。
スポンサー/関係当事者・・・各社の財務内容、資金拠出能力、関与度合いの確認、プロジェクトを実施するにあたっての経験・実績を確認します。
土地収用・・・購入/賃貸のコストや、賃貸の場合の契約状況を確認します。
建設/技術・・・建設や技術に関する実績、操業開始後のサポート体制の有無などを確認します。また、契約においては、一括請負契約で1社にまとめて発注するのか、あるいは複数の業者に分割するのかによって、リスクの度合いを確認します。支払時期や契約金額、引き渡し遅延が発生した場合の遅延損害金、完工保証、操業サポートの有無も確認します。
燃料調達・・・太陽光の場合は日照量、風力の場合は風況など外部専門家による評価が必要です。バイオマスの場合は、燃料の需給予測や調達計画に無理がないか、また燃料の代替先の有無を確認し、長期の調達可否を評価します。
操業・・・自社で行う場合の人員体制、設備メーカーとのサポート契約などについて確認します。
販売・・・電力の売電方法にはFIT契約や、一般の民間企業に直接売電するコーポレートPPAなどがあります。コーポレートPPAの場合は、販売先の信用力や価格条件も重要視されます。
キャッシュフロー・・・売上計画や経費見積といった前提条件の妥当性の確認や、融資返済余力などを確認します。
自然災害・・・ハザードマップによる災害可能性の確認や、保険契約によるカバーの検討状況を確認します。
許認可・補助金・・・必要となる許認可の取得状況や補助金について確認します。
そして、評価が低い、あるいは課題のある項目について対応策を協議し、資金調達(借入条件)へ反映させていくことが必要です。
再エネ開発事業の資金調達
資金調達には出資(自己資金)、メザニン*(優先株/劣後借入など)、銀行借入(優先借入)、リースがあります。
*メザニンとは、返済優先順位が銀行借入よりは遅く、出資よりは先に設定されている資金調達手法です。金利は銀行借入より高く、出資利回りより低いので、まさに出資と銀行借入の中間の手法といえます。
再エネ事業は複数の企業や自治体が出資し、SPC(Special Purpose Company)を設立して合弁事業として立ち上げるのが一般的です。SPCが資金調達する場合、プロジェクトファイナンスという、プロジェクトそのもののリスク・収益に依存する手法がとられます。プロジェクト計画に基づき長期の融資を受けられる点、各出資企業の体力の差による借入調整への対応が可能な点で、プロジェクトファイナンス手法は有用です。
融資を受けるため、事業性評価をもとに、適切なDSCR(Debt Service Coverage Ratio 元利金返済カバー率)を設定し、そのDSCR値を達成するベースの借入額・返済条件・融資金利を設定します。DSCRは、当該年度の余剰資金で、当該年度の元利金返済がどれだけカバーできるのかの指標であり、数値が大きいほど、返済余力が大きくなります。DSCRが1.00以下になると、延滞発生となります。
融資と出資の割合を変えると出資者のリターンも変化します。数字上では融資額が多ければ多いほど、レバレッジが効いて出資利回りが高くなります。しかし銀行はリスクを考慮して融資額の上限を設けるので、目標の出資利回りに到達しないケースもあります。その際にメザニンを活用することで、目標の利回りを達成することができます。いずれにしても、プロジェクトの内部収益率よりも低金利の資金調達の最大化を検討していきます。
プロジェクトファイナンスの融資契約には、プロジェクトが予定通り実行できるための諸条件が記載されます。契約書の「事実の表明と保証」、「コベナンツ(約束事)」等の項目に、「プロジェクトを予定通り実行するために(借入人が)やるべきこと/やってはいけないこと」が細かく規定され、借入人(SPC)はそれらを遵守することが求められます。
なお、事業が滞り返済が困難になった場合は、物件の売却益ではなく事業者を変えることによって事業の継続を図ることになります。したがってSPCの株式、プロジェクトの設備、契約書等プロジェクト遂行に必要なものが担保となります。
資金繰りがタイトなプロジェクトの場合は、予めスポンサーからの追加支援を求めたり、プロジェクトの余剰資金を積立てる、等の仕組みを検討していきます。プロジェクト進行中の資金管理は銀行が行い、専用の口座を作って売上金や経費を管理します。
再エネ事業の資金調達においてプロジェクトファイナンスは有効ですが、そのためにはプロジェクトのスキームをしっかり構築する必要があります。再エネ事業を検討する際は早い段階で金融機関と相談することが重要です。
テーマ2 再エネ導入の壁を乗り越える体制づくり(信州大学 茅野恒秀)
信州大学の茅野恒秀氏からは、「再エネ導入の壁を乗り越える体制づくり」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- 多主体協働は現代の問題解決において必然的な手段
- 再エネ導入の壁も多主体協働で乗り越えよう
脱炭素社会は、誰ひとり取り残さない持続可能なまちづくり
地域脱炭素の壁を乗り越えるための体制づくりにおいては、「多主体協働」がカギになります。そして、地域のステークホルダーを巻き込んだ学びと対話、協働を組み込んだ地域プラットフォーム・仕組みを作ることが重要です。
社会学では、社会構造に起因し、その解決に構造の変革や制度の整備が必要となるような問題群=社会問題としています。こういった問題を解きほぐし、整理して解決に向かうためには構造変革的なアプローチの方策が取られており、これは脱炭素社会づくりに向けても同様です。
脱炭素社会の実現に向けてすべきこととしては、①エネルギー効率化(=省エネ)、②エネルギー転換の2つが明確かつ標準的な方法です。また、これらを可能にする体制づくりも含めたソフト・ハード両面での③インフラ整備が必要で、自治体にも大きな役割が求められています。
脱炭素社会の実現のために地域が取組を推進する上では、気候変動対策というグローバルな変化点を、地域がしっかりと受けとめ、地域が持つさまざまな課題の解決にしっかりと結びつけ、更にこれを一者単独ではなく、地域を挙げて「持続可能なまちづくり」を行うことが重要です。
地域主導の再エネ事業の課題と共感の物語の重要性
脱炭素社会に向けて再エネ設備が増加している一方で、モヤっとする事例が増えているのも事実です。
例えば、農林関連部署からの働きかけにより公共観光施設に薪ボイラーを導入したが、指定管理者によるオペレーションがうまく行われていないため併設する重油ボイラーの稼働率が下がらず、更に利用者を含め内外へのPR、情報の見える化も出来ていないといった事例があります。また、ある地域を対象とした太陽光発電所における運営実態調査では、法律で義務付けられた柵堀や標識の整備を行っていないケースが多数あることが判明しています。
昨今の再エネに関する住民の意識調査においては、大規模収奪型事業への警戒感が顕著になり、住民は地域の利益になる望ましい再エネと、そうでないものを識別する「眼力」を持つようになっている傾向が伺えます。この傾向は、太陽光発電に関する地域トラブルの事例が増加していることがひとつの要因であると推察されます。
世界風力エネルギー協会が提唱する「コミュニティ・パワーの理念」では、地域の人々がオーナーシップを持って進める再エネの取組みは3つの基準で定義づけられ、このうち、少なくとも2つを満たすべきであるとされています。また、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の報告書においても地域再エネを拡大する上での5つの障壁が述べられています。ここから、前述したような地域再エネ事業に関わる問題は、過去、海外で先行して展開されてきた事業でも同様に起きていることが分かります。
こういった再エネに関する事業化の留意点や障壁に共通することは、関わり合う主体が多い分、関係者間の協働体制が必然的に求められることに起因しているといえます。関係者ごとに受容のパターンや共感の道筋はさまざまであることから、カギは常に複数存在すると考え、体制づくりや合意形成においても、多くの人が共感できる「物語」に接続することが重要なポイントになります。
多主体協働について(長野県内の事例)
エネルギー問題は “技術的な要素に還元できない不確実性や価値判断をはらんだ問いが複雑に絡み合う、手ごわい問題の塊”といわれます。こういった問題への対処法は明確に示されており、1.社会的学習(社会全体で学ぶ過程を組み込む)、2.トランスディシプナリー(共同・協働で知識を総体的なものとする)とされ、これらは地域脱炭素をしっかりとハンドリングする上でも必要なポイントになります。
やっかいな問題を解く多主体協働の事例として、2022年2月に始動した松本平ゼロカーボン・コンソーシアムでは、産学官の力を結集させて地域脱炭素に必要な取組を進めています。定例フォーラムや課題別部会を実施するなどしており、2023年8月現在で130に迫るネットワークに成長しています。
このような協働の場となるプラットフォームは、一朝一夕には築けません。市民の方々からの脱炭素に係る連続ワークショップの開催や、松本市の地球温暖化対策実行計画の改定のタイミングといった要素の中で、市担当者と市民間で再エネ事業を進める上では事業化支援の枠組みが必要であるという認識について見解が一致したことに始まります。その後、組織体制が出来上がり、現在は産業政策にも波及しつつあります。
そのほか、白馬村、箕輪町、飯田市、上田市など、長野県内で再エネの取組みをけん引している地域においても「多主体協働」のための対話の場、協働・協創のネットワークがカギになっています。
自治体が取り組むべき地域脱炭素に向けた体制づくり
地方公共団体実行計画の策定ではありがちな罠として、担当部署や担当者が孤立無援、コンサルに丸投げ、首長の“好きな事”に力を入れる、安直な普及啓発に逃げる等々が見受けられます。実のある計画が策定されないことは、体制づくりも含めて後々まで悪影響を与えてしまう原因となってしまいます。
重要なことは、構造的な変化を生み出し、自治体として地域の課題解決と連動した脱炭素の取組みを進めることです。福祉政策や産業政策、まちづくり等と対象を広くとらえて施策を展開する必要があります。これを実現する体制づくりでは、部門ごとの縦割りや利害関係団体の代弁者に限定するのではなく、他職種連携による多様な立場の人間の参画により議論の活発化を図ることが大切です。このような体制づくりは医療保健福祉分野では浸透しています。地域再エネの導入の壁を乗り越えるためには、常にだれかと一緒に壁を乗り越えるという習慣・意識を持って地域脱炭素に臨むことが重要です。このような成功/失敗に至る経験については、行政内部にも蓄積されていると思われます。
多主体協働は現在において必然的な解決手段となっています。地域脱炭素に関する壁もこの概念を用いることで乗り越えられる可能性があります。そのためには、学びや対話、協働を盛り込んだ地域のプラットフォームが有効になります。また、陥りがちな罠の多くがコミュニケーションに起因して発生しています。担当課、担当者だけの狭い世界にせず、人の巻き込み力を発揮して堅牢な協働の環を築くことが自治体には特に求められているといえます。
テーマ3 自治体の脱炭素実践(都市型)(静岡市 環境局環境創造課係長 廣田潤)
静岡市役所の廣田潤氏からは、「自治体の脱炭素実践(都市型)」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- 脱炭素は公民連携で進めていくため、企業と信頼関係を構築し、公益性と事業性の両立を目指すことが重要である。
- 脱炭素先行地域の申請に使える素材は周りにたくさんある。それをどのように活用していくかを考えることが重要である。
第3次静岡市地球温暖化対策実行計画について
令和5年3月に、第3次静岡市地球温暖化対策実行計画を策定しました。計画では、政令指定都市こそ他の地域を牽引しなければならないという思いから、国の温室効果ガス削減目標である2030年度46%を上回る、51%の削減という目標を掲げています。
静岡市では昨年度、実行計画と並行して、総合計画の策定にも取り組んでいました。
これまで、地球温暖化対策は生活・環境分野で取り組んできたところですが、総合計画の策定とも連動しながら、各分野横断的にGXの視点を盛り込み、様々な分野で脱炭素社会の実現を意識した政策・施策が検討されました。
ただし、行政だけが旗を振っていても脱炭素は実現できません。排出量の大きい企業の皆さんの理解を得ながら進めなければなりません。そのため、令和3年度に官民連携会議を設置しました。作業部会も設け、脱炭素社会を通じて目指す静岡市の2050年の姿の素案を作成するとともに、足元の官民の取組指針ともなる2030年度までのロードマップ素案を作成しました。これらの取組によって、商工会議所さんのカーボンニュートラルに向けた機運が高まり、中小企業向けのカーボンニュートラル特別委員会を立ち上げて支援体制を構築するなど、確かな効果を感じています。
地域事業者連携について
静岡市では、地域事業者と具体的な連携を進めています。
地域内の小売電気事業者との連携では、エネルギー地産地消事業を行っています。市の清掃工場の余剰電力や、市内の家庭用太陽光の卒FIT電力を、小売電気事業者を経由して公共施設279施設に供給するとともに、VPPも構築しています。事業効果として、従前の電気料金と比較して年間約1.3億円以上の電気料金を削減できています。
水素の利活用に関する取組みも行っています。静岡型水素タウン促進事業では、全国展開企業だけでなく、地場の企業にも参画してもらいながら、市内の都市部・港湾部・山間部といった特性に応じた利活用について検討を進めています。
静岡市の面積の約8割を占める森林に関する取組みも進めています。都市部の企業・団体に寄付をいただき、森林によるCO2吸収をはじめとした公的機能の向上に必要な森林整備を進めています。
脱炭素先行地域について
静岡市は第1回の脱炭素先行地域に選定されています。港湾部を中心に、3つのエリアを対象にしています。
清水駅東口エリアについては、ENEOSさんが中心に取組んでいます。製油所の跡地に平置き太陽光、大型蓄電池を設置し、自営線で周辺施設へ再エネを供給する計画です。また、太陽光発電から水素を製造し、モビリティにグリーン水素を供給することも計画しています。
日の出エリアについては、鈴与商事さんが中心に取組んでいます。ここは物流倉庫が立地するほか、大型商業施設が存在し、国内外のクルーズ船も停泊するなど市内有数の観光交流エリアでもあります。このエリアでは、倉庫の屋根に太陽光、系統用蓄電池を設置して、有事の際に備えた地域マイクログリッドの形成を進めています。
恩田原・片山エリアは静岡ガスさんが中心に取組んでいます。ここは工業物流エリアでして、進出企業の屋根に太陽光を設置し、それをエリア全体で使っていくことを計画しています。
また、この3社が協力して、市内全域にPPAによる太陽光を設置し、その余剰電力を脱炭素先行地域エリアに活用していくことも進めています。
脱炭素先行地域の取組みを通じて期待する効果として、地域経済効果、防災効果、暮らしの質の向上の3つをKPIとして掲げています。
なお、提案書の作成にあたっては、当時は予算も確保していませんでしたので、市担当職員で作成しました。どうやって作ったのかよく聞かれますが、地域課題を分析に使える資料は役所内に様々あります。また、環境省の支援ツールも活用することができます。素材は周りにたくさんありますので、これらをどのように活用していくかを考えることが重要だと思います。
公民連携のポイント
公民連携のポイントは、まずは、キープレイヤーを地域内で発掘することです。もし地域内にいないのであれば、外から引っ張ってくることも大事です。そして、フォーマル・インフォーマルで民間企業と信頼関係を構築するのが大事です。
民間企業の皆さんは、行政の役割として大きな方針を描くことを求めています。行政が大きな方針を画いて、それを民間資金で進めていく。脱炭素先行地域の申請もその一つだと思います。公的な申請に慣れている自治体が国から資金を獲得し、それを呼び水に民間投資を呼び込んでいくということだと思います。
最後に、公益性と事業性の両立が重要です。脱炭素といっても、ビジネスにならなければ民間企業は乗ってきてくれません。どのようにビジネスに結び付けるのかを企業と会話しながら進めていく必要があるでしょう。
テーマ4 自治体の脱炭素実践(農村型)‐地域資源を活用したゼロカーボンタウンへの挑戦(能勢町 政策推進担当係長 矢立智也)
能勢町役場の矢立智也氏からは、「自治体の脱炭素実践(農村型)」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- 地域資源を活用しつつ、地道な取組と様々な属性の人の巻き込みでゼロカーボンを目指す。
- ゾーニングマップをコミュニケーションツールとして、地域住民の方々と一緒に地域のエネルギー問題を考える。
能勢町の概要
大阪府豊能郡能勢町は町域の約8割を森林が占める緑豊かな里山の町です。他方、人口はピーク時の3分の2程度まで減少しています。担い手不足による農地や森林の管理の問題や交通アクセスの問題など自治体として取り組む課題が山積していますが、ニーズに対応するための資産・資源は減少傾向にあります。
持続可能なまちづくりへの挑戦
能勢町では年間約8億円ものエネルギー代金が地域外へ流出していました。
このような状況をエネルギーの使い方で改善できないかと、2020年に地域エネルギー会社を官民連携で設立し、エネルギーを軸とした新しいまちづくりをスタートさせました。
能勢町の地域新電力会社には、設立の際の調査検討に地元の高校生が加わったという特徴があります。高校生たちは、地域住民と共に環境や地域づくりについて1年間学んだ後、2年目には能勢町の視察団としてドイツのエネルギー事業の視察を行いました。高校生の協力は地域新電力会社設立を後押しし、また協働の取り組みが評価され2022年にはグッドライフアワードの環境大臣賞を受賞しています。
事例紹介
能勢町の取り組み事例を紹介します。
能勢町ではPPAモデルを活用して庁舎に初期費用ゼロで太陽光パネルと蓄電池を設置し、消費電力の約10%を太陽光で賄うことに成功しています。また、電力需要の大きい施設に省エネ診断士を派遣して電力使用の見直しを行ったり、電力需要の大きい夏場や冬場に施設管理者向けに勉強会を行ったりして、省エネの取り組みにも力を入れています。地道ではありますが、このような省エネの取り組みを継続して行っていく事が大切です。
公用車のEV化については初期費用が高額で導入が進みづらいという実態があると思います。能勢町では地域エネルギー会社の協力を得て、公用車の使用状況を調査、分析しました。その結果、長距離利用があまりないことから、実証実験的に中古EV車を公用車として活用しています。この取り組みは隣町の豊能町と手を取り進めており、中古EV車の経済性や品質、心理的影響などを評価しつつ実装に繋げていければと考えています。
バスを含む公共交通の縮小に対応するため、能勢町では高校にE-bike(電動アシスト付き自転車)を設置し、高校生の通学手段を確保しています。E-bikeの導入に際しては、国際交通安全学会と連携して安全教育を行い、道路管理者や高校生にも協力を得ながら道路環境の改善にも取り組んでいます。
また、E-bikeの電源を再エネで確保する取り組みも進めています。使用されなくなった太陽光パネルを高校生たちが磨き上げ、校内に設置して再利用しています。ここで発電された電気はE-bikeの充電だけでなく、地域のイベントやイルミネーションにも使われています。
能勢町の地域エネルギー会社は売り上げの2%を地域の団体へ寄付しています。寄付金は高校生の海外留学や特産品である栗の栽培技術継承を行う団体等の支援に充てられ、地域エネルギー会社が得た利益を地域へ還流することによって、地域づくりの基盤形成に寄与しています。
地域共生型の再エネ導入に向けたゾーニング
能勢町では地域の電力需要量に対して、10倍以上の再エネポテンシャルを保有していることが分かっています。この豊かな再エネ資源を適切に利用するため、能勢町では約2年間かけて太陽光をメインにゾーニングマップを作成しました。また、作成したゾーニングマップを条例に組み込み、法的な位置付けを行う事によって「作成しただけ」で終わらせない仕組みとしています。
「エネルギーを変える。まちが変わる。」ために
能勢町では「エネルギーを変える。まちが変わる。」をスローガンにゼロカーボンシティ実現のため挑戦を続けています。地域再エネに取り組む際には行政が具体的な目標を示し、特にゾーニング事業を行う際には、マップを作成して終わりではなく、マップをツールとして地域住民と対話を行う事が重要です。