第5回 再エネ導入の壁を乗り越えるために
テーマ1 再エネの事業性評価・資金調達、意義と進め方(東京大学先端科学技術研究センター協力研究員 谷口信雄)
東京大学先端科学技術研究センター協力研究員 谷口信雄氏からは、「再エネの事業性評価・資金調達、意義と進め方」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- 事業性の判断により、採算性を高め、リスクを見極め、地域にとって価値がある事業を
- 地域再エネ事業の大前提は、利益を上げ、その利益が地域にとどまること
- 自治体として、地域の特性を見極め、事業主体を地域内で育て、利益を上げ、地域に裨益する事業を支援する政策をデザインすることが重要
事業性の判断
「事業性の判断」とは、どれくらい利益の見込みがあり、どんなリスクがあり、それをやる価値があるのかを判断することで、事業実施の判断と同義です。赤字事業化、事業破綻、目的を見失った事業とならないためにも、事業性の判断は不可欠です。
また、事業性の判断をする前に、どのようにすれば採算性向上やリスク低減、実施する価値を高くできるかの工夫を考えることも重要です。行政だからこそできる採算性の向上に資する工夫・施策としては、固定資産税をゼロにして一般事業者を参入しやすくしたという事例があります。
地域再エネ事業と経済循環
地域再エネ事業を行う上での大前提は、事業を通して①利益を上げること、②地域に裨益することにあります。「地域に裨益」=事業で得た利益が地域にとどまることです。現状、多くの地域がエネルギーの大部分を地域外から購入することで、地域のお金が外部へ出て行ってしまっています。自地域におけるエネルギーに関わる地域外への流出額等は、「地域エネルギー需給データベース」というツールで調べることが出来ます。地域再エネ事業は、地域から出ていくお金を減らす一方で、利益を域内に再投資して経済循環を作っていくことができる可能性を持っています。
■地域エネルギー需給データベース
https://energy-sustainability.jp/
事業におけるお金は基本的に、準備→生産→売上→分配→支出という流れで循環します。環境省が公表している地域循環共生圏に関する動画では、この所得の循環を①生産・販売②分配(賃金、税金、会社の利益)③支出(購入、投資)の3つの局面で示しています。
■環境省 地域を強くする地域循環共生圏
https://www.youtube.com/watch?v=xfn0lwhTg18
生産・販売で大きな利益をあげても、分配の段階で利益が地域の外へ出て行ってしまうと、地域内での支出が減少し、悪循環となります。企業誘致による再エネ事業は一見ポジティブなイメージを抱きがちですが、必ずしも地域に裨益しないため注意が必要です。外部の企業を招いて大きな利益を上げたとしても、地域への還元が少ないと利益の大半が大都市に流れて行ってしまいます。そのため企業を誘致する際には、地域の企業との合弁会社にするなど、地域が参画できるような企業形態を考える必要があります。同じように、交付金や補助金を元手とした事業も、地域の中でうまく循環するような仕組みを作らないと、支出の段階で利益が地域外に流出してしまい、地域に裨益する再エネ事業にはなりません。
地域に裨益する再エネ事業は、①地域外の事業者の再エネ事業の誘致より地域内の事業者による事業を行う、②交付金補助金に依存しないでも利益が上がるような事業を行う、③様々な付加価値の相乗効果を得られる事業を行うことが重要となります。
地域再エネ事業を基盤として、生産・分配・支出の流れを地域で循環させ、また地域で所得を稼ぐ力を増やすために地域の生産・販売機能を育てることで、企業誘致等に頼らない強い地域を築くことができます。
地域再エネ事業における資金調達
事業を行うためには資金が必要です。金融が家庭の貯蓄に依存していることを踏まえると、企業が資金を調達する際には地域外の金融機関ではなく、地域の人が預入・借入に利用する地銀や信金、信用組合など地域の金融機関を利用することが重要です。地域金融機関から借入を行うことにより、事業で得られた利益は地域にリターンされ、地域内でお金が循環するようになります。昨今では、地方の金融機関の再エネ事業に関する運用の経験値も上がってきています。
地域の資金力は、1世帯当たりの平均貯蓄額(1,035万円)から換算した場合、1万人都市で約543億円、3万人都市では約1,643億円になります。一方で、自治体によって人口規模や域内企業の数・規模等も異なるため、自治体の規模に応じた取組みが必要です。特に、人口1万人未満の小規模自治体に関しては、行政主導をある程度意識することが求められます。
地域の特性を踏まえた再エネ事業の実践
再エネ事業の実践に向けては、地域特性を踏まえる必要もあります。
自地域における電力使用量と再エネ電力ポテンシャルの比率を把握することで、自地域の方向性を考えることができます。地域の再エネポテンシャルと地域の電力需要の関係性は、次の3つの型に分類されます。
①再エネ供給地域(再エネ供給可能性が非常に大きい地域):電力需要<再エネ供給
②再エネ需要地域(再エネ需要が非常に大きい地域):電力需要>再エネ供給
③地産地消地域(再エネ受給近似地域):電力需要≒再エネ供給
電力需給と資金力の関係では、①の地域と②の地域の連携も好ましいと言えます。
事業主体に関しては、地域内の企業が多い自治体では民間主体となりますが、域内に企業があまりない場合は、自治体が主体的に関与することになります。
再エネ事業を地域で実践するにあたっては、リスクが低く安定したリターンが望める事業にすることが重要です。また、自治体は事業を実施する価値があること、事業主体が地域であること、黒字を確保すること、更なる事業発展に向けた布石となることをポイントとして、地域に裨益する事業を支援する政策をデザインすることが大切です。
自治体の役割としては、事業主体の形成やリスク分析を含めた事業性評価、事業資金調達に関する支援などが挙げられます。また、カーボンニュートラルの目標値を達成するためにはどの程度の規模感で取り組めばいいか等、バックキャスティング的なアプローチを行う事も大切です。
地域に裨益する再エネ事業を高いレベルで実現している一例として、秋田県内の事業者9社と能代市が出資する「風の松原自然エネルギー」が挙げられます。同事業は総事業費160億円という規模でありながら、地元業者のみで100%オーナーシップを持つスキームを築いています。資本金はすべて地域内から調達しており、借入についてすべて地域の金融機関から融資を受けていることも特筆すべき事です。さらに能代市民からの出資枠も設け、これには上限額の倍以上の応募がありました。
地域再エネ事業の検討を進める際に配慮すべき事項
地域再エネ事業を検討する際には以下の7点に配慮することが必要です。
①地域への裨益
②地域が経営権を持つ
③地域の持つ資金の活用
④事業リスクの評価とリスクヘッジの検討
⑤地域の技術力の向上・人材育成・地域企業の参画促進
⑥地域で取り組みたいが難しい課題の把握
⑦課題解決に向けた政策のデザイン
また、環境省より、再エネ事業における事業性やリスクを検討する上で参考となる資料が発出されています。資料内容に加え、リスクに関しては事業主体リスクも検証する必要があります。上記に挙げた中で、③地域の持つ資金の活用や④事業リスクの評価は特に大切で、地域に裨益する事業を構築するためには、事業性に関しての全体の構図とリスク評価をきちんと行い、地域のお金を活用した取り組みをすることが重要です。
■環境省:「地域における再生可能エネルギー設備導入の計画時の留意点~コスト等の把握を通じた事業性の評価~」
https://www.env.go.jp/content/900498547.pdf
■環境省:「地域における再生可能エネルギー設備導入の計画時の留意点~再生可能エネルギー設備導入に係るリスクとその対策~」
https://www.env.go.jp/content/900498548.pdf
テーマ2 再エネ導入の壁を乗り越える体制づくり(信州大学 茅野氏)
信州大学 茅野氏からは、「再エネ導入の壁を乗り越える体制づくり」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- 多主体協働は現代の問題解決において必然的な手段
- 再エネ導入の壁も多主体協働で乗り越えよう
社会問題に対する解決アプローチと日本の状況
地域再エネ導入の壁を乗り越えるための体制づくりにおいては、「多主体協働」がカギになります。そして、地域のステークホルダーを巻き込んだ学びと対話、協働を組み込んだ地域プラットフォーム・仕組みを作ることが重要です。
社会学では、社会構造に起因し、その解決に構造の変革や制度の整備が必要となるような問題群=社会問題としています。こういった問題を解きほぐし、整理して解決に向かうためには構造変革的なアプローチの方策が取られており、これは脱炭素社会づくりに向けても同様です。
これを踏まえ、SDGsの達成状況を国毎の弱点を推し測る指標として捉えると、日本はエネルギー分野、持続可能な生産と消費、気候変動やパートナーシップといった項目で達成度が低く、構造変革的アプローチが脱炭素社会づくりにおいて欠かせないにもかかわらず、現実的には必ずしもそうなっていないことを象徴的に示しているといえます。
再エネに関する住民の意識変化と進むべき道
脱炭素社会の実現に向けてすべきこととしては、①エネルギー効率化(=省エネ)、②エネルギー転換の2つが明確かつ標準的な方法であり、これらを可能にする体制づくりも含めたソフト・ハード両面でのインフラ整備が自治体には求められています。
一方で、昨今の再エネに関する住民の意識調査においては大規模収奪型事業への警戒感が顕著になり、住民は地域に裨益する望ましい再エネと、そうでないものを識別する「眼力」を持つようになっている傾向が伺えます。この傾向は、再エネ(太陽光発電)に関する地域トラブルの事例が増加していることがひとつの要因であると推察されます。自治体としては再エネ事業の推進と規制のはざまで難しい状況に置かれているといえますが、だからこそ「地域主導の再エネ」が脱炭素社会の実現に向けて進むべき道であると捉えることができます。
地域主導の再エネ事業と共感の物語の重要性
世界風力エネルギー協会が提唱する「コミュニティ・パワーの理念」では、地域の人々がオーナーシップを持って進める再エネの取組みは、①地域の利害関係者がプロジェクトの多数もしくはすべてを所有している、②プロジェクトの意思決定はコミュニティに基礎をおく組織によって行われる、③社会的・経済的便益の多数もしくはすべては地域に分配される、と定義づけられ、この3つの基準のうち、少なくとも2つを満たすべきであるとされています。また、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の報告書においても地域再エネを拡大する上での5つの障壁が述べられています。これらから、前述したような地域再エネ事業に関わる問題は、過去、海外で先行して展開されてきた事業でも同様に起きていることが分かります。
こういった再エネに関する事業化の留意点や障壁に共通することは、関わり合う主体が多い分、関係者間の協働体制が必然的に求められることに起因しているといえます。関係者ごとに受容のパターンや共感の道筋はさまざまであることから、カギは常に複数存在すると考え、体制づくりや合意形成においても、多くの人が共感できる「物語」に接続することが重要なポイントになります。
「物語」に関する事例として、長野県上田市で展開されている市民出資型の太陽光発電事業「相乗りくん」(11年間で67か所/920kW設置)の出資参加者へのインタビュー調査では、理念や仕組みへの共感、脱原発・自然エネルギー推進の意志、運営メンバーへの信頼感など、様々な視点・観点から共感の声が聞かれました。地域やスケールによっても異なってくる状況の見え方に応じた多面的な共感の姿を見出せる枠組みを形作ることで、ひとつの理想的な姿を描いていると言えます。
学びと対話、多主体協働について(長野県内の事例より)
エネルギー問題は “技術的な要素に還元できない不確実性や価値判断をはらんだ問いが複雑に絡み合う、手ごわい問題の塊”といわれます。こういった問題への対処法は明確に示されており、1.社会的学習(社会全体で学ぶ過程を組み込む)、2.トランスディシプナリー(共同・協働で知識を総体的なものとする)こととされ、これらは地域再エネをしっかりとハンドリングする上でも必要なポイントになります。
これを踏まえて、2022年2月に始動した松本平ゼロカーボン・コンソーシアムでは、産学官の力を結集させて地域脱炭素に必要な取組を進めています。松本平ゼロカーボン・コンソーシアムの経緯は、市民の方々からの脱炭素に係る連続ワークショップの依頼と松本市の地球温暖化対策実行計画の改定のタイミングが重なり、ワークショップに参加した市の担当者や市内の事業者と意見交換を深める中で、再エネ事業を進める上では事業化支援の枠組みが必要であるという認識について見解が一致したことに始まります。その後、組織対組織の形に昇華され、松本市のスーパーシティ構想の中でさらに検討が深まり、現在では市内外で105者の会員数を誇る組織として産業政策にも波及しつつあります。また、松本市は今年度、脱炭素先行地域に選定されましたが、この基盤にはのりくら高原における地域協議会の存在などがあり、ボトムアップの動きが鮮明です。
そのほか、白馬村・箕輪町・飯田市など、長野県内で取り組みをけん引している地域でも、「学びと対話、多主体協働」がカギになっており、上田市で開催している上田リバース会議においても同様です。
自治体が取り組むべき地域脱炭素に向けた体制づくり
自治体として地域の課題解決と連動した脱炭素の取組みを推し進めるためには、福祉政策や産業政策、まちづくり等と対象を広くとらえて施策を展開する必要があります。これを実現する体制づくりでは、部門ごとの縦割りや利害関係団体の代弁者に限定するのではなく、他職種連携による多様な立場の人間の参画により議論の活発化を図ることが大切です。なお、このような体制づくりは医療保健福祉分野では浸透しています。地域再エネの導入の壁を乗り越えるためには、常にだれかと一緒に壁を乗り越えるという習慣・意識を持って地域脱炭素に臨むことが重要です。
これを実現するために最初にすべきことは、核となる少人数の協働を確立させること、そして個と組織のジレンマを乗り越えるために組織体組織の形にアレンジすることです。協働がベースにあれば、スモールスタートからでも事業を大きく育てることができるはずです。
また、そもそも自地域の地方公共団体実行計画が、環境以外の政策課題に影響を及ぼす形になっているかという点に留意し、画に描いた餅にならないように総合計画や都市計画の策定とセットで取り組んでいく必要もあります。
冒頭に述べたとおり、多主体協働は現代の問題解決に必然的な手段であり、地域脱炭素・地域再エネ導入における壁に対しても、同様のアプローチが欠かせません。そして、この多主体協働のためには、学びと対話、協働を組み込んだ地域プラットフォームを構築することが有効であり、その素地を作る役割が自治体には特に求められているといえます。
テーマ3 地域におけるゾーニング合意形成(東京工業大学 村山氏)
東京工業大学 村山氏からは、「地域におけるゾーニングの合意形成」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- ゾーニングは関係者間の合意形成を得る上で活用できるツールとなる
- 環境へ配慮しつつも、再エネ導入の目標値達成に向けてバランスをとるため、ポジティブゾーニングの意識を持つ
ゾーニング事業導入の背景
本講座では、ゾーニングに関する基礎的な情報について、風力発電に関する事例を用いながらお伝えします。日本では、2016年度から再生可能エネルギーに係るゾーニングのモデル事業が進められています。この背景には、地球温暖化対策の推進の上で再エネ導入が求められる一方、再エネ施設計画立案後にいくつかの地域で周辺住民と事業者との間に紛争問題が発生した事例が出てきています。
2012年、2017年の風力発電における環境紛争発生の状況調査では、全体の約4割で何らかの紛争が起きており、そのうち2割程度は計画中止や凍結に至っているという報告があります。紛争の原因と事業者の対応に関するアンケート調査では、騒音・野鳥・景観・自然災害・水質に関する紛争は、事業者側の対応によっては運転開始となるケースがみられたものの、災害・計画破棄の要求が原因である場合、事業者が何らかの対応をしたとしても問題解決は難しいことがわかりました。
また、別の調査によれば、紛争が生じた場合、施設の運用方法の変更や説明機会の創出等、ソフト面の変更のみでは地域の理解を得るのは難しく、風力発電の施設数を減らす、風車の位置を変える等、物的な変更が伴わないと納得を得た運転開始には至らないという結果となりました。これらの事実からも、施設の立地が計画される前の段階で、議論を重ねて地域の理解を得ることが求められていると分かります。
「ゾーニング」とは
環境保全と、ステークホルダーの合意形成も含めた再エネ施設の導入促進を両立するための方法としてゾーニングがあります。ゾーニングは、再エネ施設の具体的な立地が議論される前の段階で、立地にふさわしいエリアか否かを検討する目的で実施されています。ですので、ゾーニングは、地方自治体の再エネ施設の導入に向けた政策ツールとして活用することができます。また、事業者においてもあらかじめ配慮すべき事項やリスクが明らかとなるため事業の予見性が高まり、住民にとっても早い段階から議論に参加することで無用な対立を避けられるというメリットがあります。
ゾーニングのエリアは、次の3種類による分類が基本となります。
①【保全エリア】法令等により立地困難又は重大な環境影響が懸念される等により環境保全を優先することが考えられるエリア
②【調整エリア】立地に当たって調整が必要なエリア
③【促進エリア】環境・社会面からは施設の導入を促進しうるエリア
エリア分けをする際にはネガティブチェックに限定せず、法令等で指定された保護区域や住宅・学校・福祉施設の立地状況、野鳥への配慮といった環境保全の観点に加えて、例えば風力発電であれば風況・地形等といった事業性に係るポジティブなものまで、様々な情報を項目ごとに考慮します。
合意形成の手法
ただし、項目別に考慮すると言っても簡単ではなく、例えば再エネ施設から住宅までの距離や、自然公園等の保護地域、災害に関わる情報を持つ区域等は、一律に定めがある訳ではないため、地域との対話を通じた関係者間の合意形成が大変重要になります。
ゾーニングにおける合意形成の手法には、協議会の開催や有識者へのヒアリング調査、項目別の個別のヒアリング調査等があります。そのほかにも、地域住民向けの説明会、ワークショップ、地域全体を対象としたアンケート調査等、複数の手法を組み合わせることで議論と理解を深め、関係者間の合意形成を図ることでゾーニングマップのエリア分けを進めていきます。
地方公共団体によるゾーニングの事例
2016年度からスタートした環境省のモデル・実証事業(風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業及び実証事業)では、16の自治体において、約2年をかけてゾーニングマップを作成しました。また、これらの取組みでは環境省のアセスメントデータベース“EADAS”が活用されています。
■風力発電等に係るゾーニング導入可能性検討モデル事業及び実証事業成果(ゾーニングマップ等)
http://assess.env.go.jp/3_shiryou/3-1_government/reportdetail.html? &kid=11
■環境アセスメントデータベース“EADAS”
https://www2.env.go.jp/eiadb/
石狩市の事例では、まずGISデータで収集・整理した地理情報のデータから事業性のあるエリアを特定した後、環境保全上避けるべきエリアを除外する形でのエリア分けが一次スクリーニングとして実施されました。その後、二次スクリーニングでは、検討委員会・作業部会での議論や住民へのアンケートなどの追加調査を通じて、促進・調整・保全エリアに分けた最終的なゾーニングマップを作成されました。調整エリアでは、調整項目の数・度合に応じて更に3段階に分けられています。
■石狩市
https://www.city.ishikari.hokkaido.jp/soshiki/seikatsu/34027.html
改正温対法にもとづく地域脱炭素化促進事業制度の体系と「促進区域」
従来国内で行われてきた環境アセスメントでは、風力発電の立地や規模等が決定された「事業段階」において議論がなされてきました。一方、ゾーニング事業では、どのようなエリアであれば風力発電の施設立地可能か、といった「戦略的意思決定段階」においてステークホルダーと議論した上で次のステップに進めていくことを狙いとしており、これは昨今の風力発電事業の取組みにおいて求められていることの一つになっています。こういった観点は改正温対法にも取り入れられており、地域脱炭素化促進事業制度の中でも、地域脱炭素に向けた市町村による促進区域等の設定が全国レベルで求められています。設定にあたっては国や都道府県が定める基準に基づくことになっていますが、全国一律で制定されているのはあくまで促進区域から除外すべきエリア又は考慮すべきエリア・事項にとどめられているため、実際に促進区域を選定するのは市町村の役割となります。
促進区域を選定する際には、区域指定がネガティブチェック一辺倒で進んでしまい、促進区域として設定できるエリアが狭小になってしまうことが往々にして起こるため、達成すべき中長期的な再エネ目標・計画の実現を念頭に置いてバランスを取りながら選定していくことが求められます。
改正温対法では促進区域の抽出方法は幅広くとられており、①広域的ゾーニング型、②地区・街区指定型、③公有地・公共施設活用型、④事業提案型が主たる4種類として想定されています。
にかほ市と新潟市におけるゾーニング事例
にかほ市におけるゾーニングの事例では、風力発電導入の可能性について、現地調査、協議会、事業説明会、アンケート調査、ワークショップ等を行った結果、導入可能性エリアをある程度の規模で設定することが出来ています。
また、新潟市の事例では、風力発電と共に太陽光発電のゾーニングを行った結果、風力発電導入の可能性は低いものの、太陽光発電において導入促進や配慮、調整といった区域で設定することが出来ています。地域によって保有する再エネポテンシャルは異なるため、複数の再エネ種についてゾーニングすることで、地域の特性に応じた再エネ事業を見い出すこともできます。
今後の検討の視点
ゾーニング事業では、環境への適正な配慮と再エネ導入の目標値の達成に向けてバランスをとることが課題であるといえます。その解決に向けて、再エネ導入にふさわしいエリアを選定するためには、協議会等で丁寧に議論し、各々の立場の理解を深めた上で関係者の合意形成を図ることが重要です。環境配慮に関しては、再エネの種別によっても環境への影響が異なるため、計画プロセスに応じた段階的な配慮を前提として、事業と照らし合わせた環境保全措置の在り方を考えることが必要です。また、合意形成おいても、中々議論が深められない場合は調整エリアとして留め、次の段階で進捗させるといったことが考えられます。
ゾーニングのメリットのひとつとして、小規模なレベルでのゾーニングのケースではエリア選定に向けて詳細な情報が用いられることから、環境アセスメントの手続きを一部スキップできる場合があります。一方で、大規模自治体や複数自治体による広域な区域設定の際に詳細な情報が得られていない場合には、通常の手続きが求められます。
ゾーニングはあくまでエリア分けに過ぎないため、実際にどの程度の施設が設置されるかは、その後の事業レベルの検討に委ねられます。促進エリアの中に多くの施設が集約される可能性があるため、施設ができた場合のイメージをある程度共有しておき、累積的な影響に対応する準備をしておく必要もあるでしょう。
テーマ4 自治体が実施するゾーニングの実例(能勢町役場 矢立氏)
能勢町役場 矢立氏からは、「自治体が実施するゾーニングの実例」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- ゾーニング事業をコミュニケーションツールとして、地域住民の方々と一緒に地域のエネルギー問題を考える
- 地域の想いと客観的/科学的評価を踏まえた、継続的な地域住民との対話が不可欠
能勢町の概要
大阪府豊能郡能勢町は町域の約8割を森林が占め、生物多様性に優れた自治体ランキング調査では全国トップに選出されるほど、生態系が保全されている町です。他方、人口はピーク時の3分の2程度に減少しており、高齢化率は4割を超え、今後約20年のうちに生産年齢人口が8割近く減るという推計がなされています。
担い手不足による農地や森林の管理の問題、交通・福祉等の自治体サービスへのニーズが増加する一方で、人口減少や経済縮小によりニーズに対応するための資産・資源は減少傾向にあります。
エネルギーを軸とした持続可能なまちづくり
これらの地域課題に対し、将来にわたって担うべき機能が発揮される自治体へと転換していくために、能勢町では2020年に地域エネルギー会社を設立し、エネルギーを軸とした新しいまちづくりの取り組みを推し進めています。
地域新電力の設立に合わせて策定されたゼローカーボン宣言ならびに地球温暖化対策実行計画では、再エネ導入のためのゾーニングを具体的重点施策の一つとして位置付けています。
能勢町におけるゾーニングレイヤーの事例
ゾーニング事業による基礎調査において得た情報をレイヤーとして重ね合わせ、主に6つのエリア(①自然保護に関するエリア、②動植物保護に関するエリア、③保安林に関するエリア、④土砂災害に関するエリア、⑤農地に関するエリア、⑥住居等からの離隔等)に区分し、再エネ導入にふさわしいエリアに関する情報を整理しています。
ゾーニング事業の進め方
能勢町ではREPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)のデータを基に、陸上風力発電と太陽光発電をゾーニング対象の再エネ種別として位置付けており、陸上風力に関してはそれほど高いポテンシャルを有していないことから、太陽光発電をメインに事業を進めています。また、町の特性を活かした豊富な森林資源の活用といった面から別調査を進めるなど、再エネ構成の厚みを持たせることも検討しています。ゾーニング調査は2021年度からスタートし、庁内の政策企画部局と環境部局、専門家がチームを組み合意形成の取り組みを進めています。
■REPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/index.html
能勢町の地球温暖化対策実行計画における再エネ導入目標は、2030年までに2015年比の2倍(約16.7MW)、2050年に4倍(約36.0 MW)と定めています。
再エネ導入に必要な面積規模については、地上設置・公共施設への屋根置き・公共および民間施設に屋根置きといったシナリオを想定した調査の結果、変更の可能性がある検討段階の数値ではあるものの2030年までに最大で約2.3万㎡、2050年まででは最大で約10万㎡の土地が必要であることがわかってきました。一方で、これをゾーニングマップに照らし合わせてみると、規制のないエリアのみでの太陽光発電設備の設置では導入目標が達成できない可能性が非常に高いため、目標達成に向けては、法令上の規制だけではなく地域の方々と合意形成を図りながら、開発可能なエリアを検討していくためのルールづくりがゾーニングの重要なポイントになっています。
ステークホルダーへのヒアリングとコミュニケーション
能勢町ではステークホルダーへのヒアリング調査を実施しています。山林開発型の太陽光発電に関しては景観や動植物への影響を懸念する声が挙がった一方で、土地の有効活用や風力発電の設置と合わせた森林整備促進を期待するといったポジティブな声も聞かれました。また、再エネそのものに対する疑問も非常に多く見受けられたことから、再エネに対する地域住民の方々の理解を深めるためのコミュニケーションの場・機会としてワークショップを開催し、ゾーニング事業や再エネ導入の意義についてご説明するとともに、エネルギーによって生まれる新しい付加価値の重要性などについて共有を図りました。
ゾーニング策定後の出口戦略案
ゾーニング策定後の出口戦略案としては、地域の方々が積極的に関わっていただけるような再エネ事業の促進が重要であるという観点から、地域エネルギー会社へ市民出資していただけるような仕組みづくりの検討や共同調達による屋根置き太陽光パネル導入の促進などに取り組んでいきたいと考えています。
また、政策的なアプローチとしては、ゾーニングマップと合わせて条例を制定することを議論しており、地域の土地利用について住民・事業者それぞれの意見を踏まえた上で行政がコントロールしていく事が重要かつ難しいポイントであると実感しながら取り組んでいます。
ゾーニングを通じて目指す能勢町の未来
能勢町では、ゾーニング事業を地域のエネルギー問題について住民の皆さまと一緒に考えるためのコミュニケーションツール・意見交換の場の一つであると捉えています。その上で、①地域住民が積極的に出資、関与する再生可能エネルギー事業が増加している。②地域内経済循環が形成され、脱炭素と共に地域活性化につながっている。③気候変動に対する正しい知識が醸成され、脱炭素の取り組みが地域の誇りとなっている。これらを能勢町がゾーニング事業を通じて目指す将来像としています。
さらに、再エネ導入状況をモニタリングしながら、2050年の目標値に向けて木質バイオマスの熱利用や風力発電導入の可能性も見据えるなど、定期的な内容の見直しによって脱炭素の目標達成と地域活性の取り組みの両立を目指しています。