第2回 地域エネルギービジョン・脱炭素シナリオの設計
テーマ1 自治体のエネルギービジョンと具体的施策(一般社団法人ローカルグッド創成支援機構事務局長 稲垣憲治)
一般社団法人ローカルグッド創成支援機構事務局長の稲垣憲治氏からは、「自治体のエネルギービジョンと具体的施策」をテーマにお話をいただきました。以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- 実際に脱炭素事業を「実行」することが大切。事業実施を想定して、計画を作る必要がある。
- 自分の地域に合う施策を考え、実行しよう!
地球温暖化対策実行計画(区域施策編)
「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)に基づき、自治体には温室効果ガス削減のための「実行計画」策定が義務付けられています。
実行計画策定にあたって是非念頭に置いていただきたいのは「地域エネルギー事業と脱炭素はまちづくりの取り組みである」という点です。
計画策定の第一歩は「望ましい地域の将来像」を考えることから始めましょう。「望ましい地域の将来像」は自治体の総合計画などで示されていることが多いため、関係計画との連携も大切です。
標準的な実行計画(区域施策編)は、「実行計画の背景・意義」「温室効果ガス排出量の推計・要因分析」「目標」「温室効果ガス削減に関する対策・施策」「地域脱炭素化促進事業に関する内容」「区域施策編の実施及び進捗管理」で構成されることが多いです。
実行計画の策定にあたっては温室効果ガス削減の目標設定をすることとなりますが、国の目標を踏まえ、自治体も2013年度を基準年度に2030年度を目標年度に設定し、ゼロカーボン宣言をする場合は2050年にゼロという構成がスタンダードです。
目標達成の施策検討時には政府の地域脱炭素ロードマップにおける重点施策が参考になります。
事業実施に力を入れるため、計画策定は手間をあまりかけず合理的にすることも重要と考えています。そして事業実施にあたっては地域の事業者を巻き込むなど実効性を担保しながら進めることが重要です。
区域施策編と事務事業編の一体作成、複数自治体による共同策定や他の行政計画と一体作成も可能ですから是非ご検討ください。
環境省ウェブサイト(※)には策定マニュアル・策定状況リストなども掲載されていますので、これらを活用し、計画策定の業務負荷を減らして実際の脱炭素事業に注力いただければと思います。
※https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/manual.html
部門別 脱炭素施策事例
ここからは脱炭素施策についてご紹介します。
家庭部門の施策例としては、ZEH(ゼロエネルギー住宅)補助、既存住宅の省エネ改修補助、省エネ家電の導入推進(省エネラベル推進)、省エネ診断補助の他、建築主に対し新築時に省エネ性能・太陽光発電等設置の検討を義務づける制度もあります。
運輸部門ではEVカーシェアリング、EV・FCV等の推進、充電インフラの拡充、エコドライブの推進、などがあります。
業務部門では省エネ診断や省エネ機器導入補助、再エネ導入補助、再エネ電力への切り替え推進、新築時の高い省エネ性能の検討義務などがあります。
住民や事業者に対して施策を伝える際には、「脱炭素のため」だけではあまり刺さらないため、他のメリットをしっかりと訴求しましょう。例えば、電気代が上昇傾向にあり、自家消費型太陽光発電の経済的メリットが上昇しているという情勢を伝えるのも良いでしょう。
個別施策ピックアップ
公共施設へのオンサイトPPAは、現在注目されている太陽光発電の設置方法です。提供できるスペースの大きさが一定規模以上あり、自家消費率が一定以上ある(余剰電力が少ない)場合にPPA事業者の採算性が良くなること等を押さえておきましょう。
なお、取り組みに対する他部署からの反対に、実務上お困りの方も多いでしょう。反対意見の真の理由を聞きだし、その相手部署のメリットを提示するなどができると進みやすいです。
その他の施策として、徐々に広がりつつあるのが、太陽光発電や再エネ電気の「共同購入」もあります。
これまでご紹介した通り、脱炭素に関する施策は非常に多種多様です。
自治体が行う脱炭素事業のおすすめ優先順位としては、まずは公共施設の省エネ(特に新築のエネルギー性能向上)、そして公共施設の屋根へ太陽光発電設置、続いて地域特性に合った様々な施策の順となります。
また、どうしても中長期的な取組になってしまいますが、交通分野等との連携による脱炭素もとても重要です。地域特性に合わせて効果の高い施策を優先的に取り組むことが大切です。
テーマ2 CO2排出量の推計による脱炭素シナリオの作成(イー・コンザル 越智雄輝)
第2回セミナーに登壇したイー・コンザル研究員の越智雄輝氏からは、「CO2排出量の推計による脱炭素シナリオの作成」をテーマにお話をいただきました。
以下、セミナーでお話いただいたことをダイジェストでお伝えします。
ポイント
- 2050年脱炭素の実現に向けて、現状の把握とシナリオの作成が重要
- 既存ツールを活用して排出量の現況推計や脱炭素シナリオ作成が可能
- 脱炭素シナリオは、将来のビジョンと排出量推計からなる
- 脱炭素に向けて、部門ごとに省エネ、電化、再エネ利用を検討することが必要
- 再エネ導入目標の設定にも活用できるツールがある
- 脱炭素シナリオにより、実行計画で目指す中期目標が明確になる
脱炭素の実現に向けたステップ
脱炭素は非常に高い目標です。現状の延長で少し頑張ればできるものではありません。そのため、定量的な分析により傾向と対策を練ることが必要になります。
脱炭素を計画的に進めるためには、現在の排出量と将来の排出量の2種類の推計を行うことが必要になります。大規模排出事業者の有無、都市部か農村部か、などによって地域の状況は大きく異なります。まずは自地域の現在地を知ることが大事です。そして、将来の排出量推計に基づく削減シナリオを作成し、地域の特徴に応じた対策を検討することが必要です。
排出量の現況推計
まず、現在の排出量推計についてです。ざっくり言うと、区域の実績値を用いる詳細な方法と、国や都道府県のデータを用いる簡易な方法があります。どちらにもメリット・デメリットがあります。
詳細な方法は、事業者へのヒアリング等を行うことで正確な排出量が分かる一方、非常に手間がかかります。また、必ずしもすべての事業者からデータを得られるとは限りません。
他方、簡易な方法は、全国や都道府県の排出量を部門ごとに活動量で按分することで、比較的簡単に算定できます。ただし、按分で計算しているため、その区域独自の対策の効果が反映されにくいというデメリットがあります。
詳細な方法で正確な排出量を把握するに越したことはありませんが、これから始めるという地域においては、まずは簡易な方法で区域の傾向を掴むことが大事です。簡易な方法については、環境省やGoogle、イー・コンザルなどが無料で提供しているツールを使って算定することができます。
脱炭素シナリオの作成方法
次に、脱炭素シナリオの作成方法、そして将来の排出量推計について見ていきましょう。
脱炭素シナリオとは、ゼロカーボンを実現した将来のビジョン、それに向けた排出経路の分析、実現に必要な施策から構成されるものです。その作成方法は、定性的な将来ビジョンと定量的な排出量推計の両輪から成り立っています。
ゼロカーボンの実現は、日常生活、産業活動、交通などあらゆる場面、分野で進めることが必要になります。そのため、将来ビジョンにおいては、温室効果ガスの排出削減ということのみならず、生活の質の向上、地域経済の発展に関することなどを示し、住民や事業者の理解に繋げることが必要です。また、イメージしやすく、魅力的に思える将来ビジョンであることが大事です。
将来の温室効果ガス排出量の推計方法としては、CO2排出量を3つの要素の積に分解し、それらの将来の変化を想定します。すなわち、活動量(社会経済の変化)×エネルギー消費原単位(省エネなどエネルギー消費量の削減対策)×炭素集約度(エネルギーの脱炭素化、利用エネルギーの転換)で推計します。
脱炭素シナリオを作るにあたっては、専門的な知識やノウハウも必要になります。必要に応じて既存のツールや事業者委託を有効活用してください。ただしその場合も、本当に地域のためになっているかどうか、自治体職員自ら考え理解することが大事です。
■「地方公共団体における長期の脱炭素シナリオ作成方法とその実現方策に係る参考資料Ver.1.0」
https://www.env.go.jp/content/900498520.pdf
脱炭素シナリオ作成における考え方
脱炭素シナリオの作成では、まず、エネルギー利用の変化について考える必要があります。化石燃料を極力使わず、再エネあるいは再エネで発電した電気を使用するというのがスタンダードな考え方です。つまり、①省エネ、②電化、③再エネ電気利用、④再エネ熱利用、⑤CO2吸収というステップで考えます。
また、気を付けないといけない点として、ロックインの回避があります。インフラ開発や寿命の長い設備の更新では、一度CO2排出量の大きい方法・技術が選択されると、数十年単位で高い排出水準に固定されてしまいます。これをロックインといいます。代表例として、石炭火力発電所や断熱性の悪い建築物などが挙げられます。2050年ゼロカーボンの実現に向けては、ロックインの回避を考慮してシナリオを検討する必要があります。
脱炭素シナリオ作成にあたり、産業、家庭、運輸など各部門における省エネ、電化、再エネ利用を検討していくことになります。例えば産業部門では、資源利用効率の改善や設備の高効率化、電力・水素等への燃料転換などの検討が必要になります。家庭部門では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及、家電の高効率化、電化の促進などが検討対象となります。
温対法改正により、再エネ導入目標の設定が求められています。都道府県・政令市・中核市は実行計画(改正温対法に基づく地方公共団体実行計画)で再エネ導入目標を追加することになり、それ以外の市町村については再エネ導入目標を定めることが努力義務となっています。再エネ導入目標の検討に使えるデータとして、現在の導入量については再エネ特措法情報公表用ウェブサイトで、将来のポテンシャルについては再生可能エネルギー情報提供システム(PEROS)でデータを得られます。また、この二つの情報をまとめて、環境省では促進区域検討支援ツール、再エネ目標設定支援ツール、自治体再エネ情報カルテという使いやすいツールを公表しています。
■再エネ導入目標の検討に使えるデータ・ツール
・再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法 情報公表用ウェブサイト
https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfoSummary
・再生可能エネルギー情報提供システム[REPOS(リーポス)]
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/index.html
・促進区域検討支援ツール
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/gis_promotion.html
・再エネ目標設定支援ツール
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/kanri.html
・自治体再エネ情報カルテ
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/karte.html
実行計画と脱炭素シナリオの関係
実行計画は2050年脱炭素に向けた前半戦の具体的な計画と捉えることができます。他方、脱炭素シナリオはその策定を義務付けられていませんが、長期的な目標としてこれを作成しておくことにより、2030年時点で到達すべき地点を明らかにできます。つまり、実行計画の目標・施策が合理的に検討できるようになります。