令和6年度地域脱炭素実現に向けた中核人材の確保・育成委託業務

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第7回 官民連携事業について知っておくべきこと

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テーマ1 官民連携 総論(株式会社まち未来製作所 地域戦略部門 主席研究員 上保 裕典)

地域脱炭素事業を効果的かつ持続的に取り組んでいくためには、行政と地域事業者等の民間が相互の強みを生かし協働する「官民連携」が求められます。この講座では、官民連携の必要性や留意点について解説します。

ポイント

  • 官民連携の地域脱炭素事業は、防災、暮らしの質の向上、地域の経済循環等、地域課題を解決し、地方創生に貢献できる。
  • 官民連携はビジョンや理念を官民で共有し、公共性・公益性を担保しながら事業性を確保することが重要である。
  • 民間事業者は地域課題等の情報を求めているが、多数の自治体がその情報を公表していないというデータもあり、このようなギャップを埋めることは官民連携のマッチングに繋がる。

1.地域再エネ事業における官民連携の必要性

地域脱炭素は、地域の成長戦略となり得るものです。自治体、地域企業、市民が主役になり、再エネ等の地域資源を活用することで地域の課題を解決し、地方創生に貢献していくものです。地域再エネ事業は防災、暮らしの質の向上、そして地域の経済循環を創出する手段です。

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地域の人口減少や経済の衰退によって自治体の財政がひっ迫すると、公的サービスの低下が懸念されます。官民連携による再エネ事業は、地域再エネ事業に移行することによって「事業性」と「社会性」を両立し、民間企業も公益的な事業を実現できる状態になることから、地域の課題解決を担う役割として期待できます。

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秋田県能代市の風の松原自然エネルギー株式会社は、地元企業7社、秋田県内地方銀行2行、能代市の全10者により設立されました。発電所建設工事のうち造成・基礎・運搬・据付・送電線工事・メンテナンスなどを可能な限り地元企業へ発注し、地域経済や雇用創出に貢献しています。FIT売電の終了後のリプレースの際には、各種工事を地元企業へ発注することで経済効果が期待できます。風力発電所には、蓄電池(24,192kWh)を併設し、停電時は風車の自立運転および発電を2週間以上可能とする独立電源システムを構築、現在は、EVやスマートフォンに充電を行う災害協定を能代市・風の松原自然エネルギー・大森建設の三者で締結し、レジリエンス向上に役立てています。

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茨城県神栖市では、市と地域事業者が連携して発電事業を行い、電気を都市部の需要家に販売して、地域に還元する取組を行っています。この取組は地域経済を活性化するだけではなく、運用した資金による地域のコミュニティ形成やレジリエンス向上に繋げています。

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行政機関は地域特性・ニーズの理解しており、政策支援(規制の緩和等)が可能で、透明性・信頼性があります。一方で民間事業者は、技術・サービス等の専門性や、事業の持続性(資金調達・プロジェクト推進)があります。
官民連携で事業性と社会性を両立して取組むことにより、地域再エネ事業はお互いのリソースや能力を補完し合いながら効率的に推進することができます。

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地域再エネ事業における官民連携のパターンは多様です。例として、法制度に基づく土地利用等における誘導や事業支援等の「政策的な支援」、地域課題解決(経済活性化、ゼロカーボン、防災等)に向けた「協定の締結」、公共施設等を活用した民間事業者によるサービス等の「実証事業の実施」、自治体が所有する遊休施設や遊休地の「公共施設等の提供(貸与)」、民間事業者が提供する「民間サービスの活用」、地域再エネ事業に対する「自治体による出資」などが挙げられます。

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2.官民連携における留意点

官民連携においては、例えば担当者が異動し事業が滞る、首長が変わり方針や優先順位が変わる、単年度予算で継続的な取組が難しい、短期間で成果が求められてしまう等、事業を進めていく上で問題となるような点もあります。これらの問題をクリアするために留意すべき点を解説します。
<ビジョンの共有>
自治体として公共性・公益性を担保しながら、事業性を確保し、継続的に取り組んでいくためには官・民の担当者レベルの認識の共有ではなく、官(自治体)と民(企業)が組織として、事業の方向性の認識を共有することが重要です。

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<事業リスクのマネジメント>
自治体における各種計画による事業においては、その実施において思わしくない方向に進んでしまう場合もあります。しかし、その際にどこで事業の見直しをすればいいのかの判断ができず、改善されないまま、事業が進んでしまうということもよくあります。
このような状況は、自治体と民間企業双方にとって好ましい状況とは言えません。あらかじめ、事業リスクを想定し対応策を決めておくことによって、不測の事態となっても官民で協力して事業の軌道を修正することができるでしょう。

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官民連携に関する参考情報です。自治体が事業に取り組む際、連携する企業がいないということをよく聞きますが、このような場合、地域課題の情報提供を官から発信することで、専門性を有する民間事業者とのマッチングが期待できます。

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国の調査によると、自治体において当該地域課題をホームページや新聞などで対外的に公表されているかという問いに対して、70%以上の自治体が公表していないというデータがあります。

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一方、民間事業者は、連携したい自治体を選ぶ際に重視することは何かという問いに対し、「自治体から地域課題に関する情報提供が積極的に行われていること」という回答が最多になっています。また、「実証実験の提供など新たな取組に対する受け入れ体制があること」、「担当となる自治体職員の問い合わせへの回答が早いこと」といった回答も多く、情報提供や体制の整備がされていれば民間事業者との連携はマッチングしやすくなると言えます。

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また、民間事業者は、自治体と連携して将来、地域課題解決を進めることを行いたい理由として、「市場の拡大を検討しているから」という回答が半数以上となっています。官による地域課題の情報提供は、地域内だけではなく地域外の専門性の高い民間事業者とマッチングする契機となり得るでしょう。

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官民連携においては、官の役割と民間事業者の役割はそれぞれ異なっており、それぞれの立場の違い、メリットの違いを理解する必要があります。
官民連携に取り組む場合、官においては、政策、事業の効果的な推進、公益サービスの利便性向上、地域課題の解決等のメリットがあり、また民においては地域が有するブランド力等による認知度向上、販路・市場の拡大、地域における信用力・調整力、地域課題・ニーズの把握、法手続き等に関する知見・ノウハウ、補助事業に必要な地域連携先の確保といったメリットがあります。
このような双方のメリットを、双方が理解しておくことによって、円滑な連携体制を構築することができると考えます。

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一方、官民連携においては、よく「公平性が」や「リスクが」ということで事業が進まなくなる、あるいは思考が停止してしまうことがあります。
公平性には、プロセス(機会、選定)の公平性や結果の公平性などがあります。リスクにはリスクが発生する時はいつなのか、リスクはコントロールできるのか、そのリスクはどの程度の影響があるのかなどがあります。官民連携事業を進めるためには公平性やリスクを細分化して整理して、準備しておくことが重要です。

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官民連携においては、事業をリードする人材がその信念や事業の目的を発信していくことによって、企業・人材の集積をもたらします。今後、地域再エネ事業に取り組む際は、まず皆さんが積極的に情報発信をしていただきたいと思います。

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テーマ2 地域事業の資金調達に関するファイナンス基礎(ごうぎんエナジー株式会社 営業戦略部副部長 兼 鳥取支店副支店長(山陰合同銀行から出向) 井上光悦)

官民連携による地域脱炭素事業の資金調達にはいくつかの方法があります。この講座では金融機関の視点で、融資による資金調達についてクローズアップし、官民連携事業をどう評価してサポートをするのかを解説します。

ポイント

  • 官民連携事業であっても、融資等の資金調達を実現するには事業実現性や継続性が高いものでなければならない。
  • 出資者とEPC・OM事業者、オフテイカー等が出資者を兼ねる場合、利益相反が生じる場合もあるので、事業安全性の観点から金融機関の考え方とは一致しないこともある。
  • 金融機関は地域の様々な事業の取引先を数多く持っており、情報提供をすれば事業スキームの提案や取引先のマッチング等、地域の金融仲介機能の役割を果たす存在である。

1.官民連携事業とファイナンス

下図は一般的な官民連携のイメージを表しています。行政機関の関与が強い項目は左側、民間事業者の関与が強いものは右側に示されています。行政機関は「発注者」としてのケース、「出資者」としてのケース、「オフテイカー(需要家として財やサービスを享受する立場)」としてのケース、またはこれらの要素が全て含まれるケースといったように、案件によって立場の違いが生じることが多くあります。

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また資金調達は大きく分けて、「出資」、「融資」、「社債」、「補助金」、「その他(クラウドファンディング、寄付、ファクタリングなど)」に分類できますが、資金調達方法には決まった「型」があるわけではなく、事業の内容や事業主体、事業規模、期間など事業特性に応じて最適な組合せを選択していくことが必要です。

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資金調達の分類としてバランスシートの視点で説明します。下図の左側にある「資産」は、金銭的な価値を持つ財産や将来的な収益が期待できるもので、右側の負債と純資産で調達した資金をどう運用しているかが示されます。この資産に基づいて調達するファイナンスをアセットファイナンスと呼びます。右上の「負債」はデットファイナンスと呼び、契約によって有期で返済を要する借入のことで、事業利益の有無によらず返済の義務が生じます。また右下の「純資産」は、出資や増資のことで、特定の期限で返済の義務がなく、利益が出た場合に投資家に還元する資金です。これをエクイティファイナンスと呼んでいます。

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金融機関の融資を大きく分類すると、「コーポレートファイナンス」と「プロジェクトファイナンス」に二分されます。
コーポレートファイナンスは、企業や事業組織への融資のことで、既に行っている事業を含めた収益全体が返済の原資になります。所有する不動産等の物的資産を担保とする場合もあります。
一方、プロジェクトファイナンスはプロジェクトや事業そのものに対する融資であり、元利金はそのプロジェクトや事業から生じるキャッシュフローに限定されます。担保も、プロジェクト・事業に関連する物的資産やプロジェクト関連契約に限定されます。つまりプロジェクトファイナンスは、より事業の内容に評価の重きを置いていると言えます。

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官民連携事業であれば、金融機関の事業に対する評価や審査基準が甘くなるというわけではなく、例えばその事業の蓋然性が低いと判断される場合は、金融機関は融資を行いません。あくまでも融資対象となる事業性に基づいて融資の判断が行われることが前提となります。しかし地域の発展が期待できる内容の事業であれば、金融機関は、資金供給によって事業をサポートし、事業における金融仲介機能の役割を果たす存在となります。

2.ファイナンス&リスクの留意点

下図は公共施設のオンサイトPPAの事業モデルの例です。

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このモデルにおいては、建設会社等のEPC事業者が出資者となった場合、事業の請負で得られる利益が多くなれば(=事業費増加)、出資者としてのIRRは低くなり、利益相反が生じる場合もあります。設備の維持管理を請負うOM事業者が出資者となった場合も同様の懸念はあります。利益相反が生じます。
このような利益相反は事業ガバナンス上、マイナス評価となる場合もあります。
また、自治体がPPA事業会社と長期に渡る電力受給契約を締結する等、自治体がオフテイカーである場合は、金融機関は事業の長期安定性の視点で事業性評価においてプラスと判断する可能性があります。但しオフテイカーである自治体が出資者も兼ねる場合は利益相反が生じる可能性があるので注意が必要です。

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下図は金融機関が考える事業リスクの一例です。想定されるリスクを整理し、リスク回避や圧縮策、リスク発生を抑えるための措置、組織体制や責任分担といったリスクコントロールは、事業評価において重要なポイントになります。

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地域の金融機関にとって、地域内で様々な業種の企業と数多く取引していることは大きな強みです。可能な限り早い段階で情報提供を行えば、金融機関は事業スキームや手法のアドバイスを行うこともでき、取引先とのマッチングも可能となります。また、事業参画・実施に向け、行政機関特有のスケジュールや予算、行政手続上必要なタスクの洗い出しを行い、参入事業者の立場を尊重した条件整理を行うことも重要です。地域事業としての意義があっても収益性が乏しければ民間事業者は参入しません。適正な利益水準を維持しつつ持続性のある事業計画を共有して、空想ではない地域の将来像を官民で共有しながらチャレンジすることが、事業実現の近道となります。

地域脱炭素化に向けては、事業確立、地域課題への対応、ロールモデル化を行い、地域で得た収益を地域へ再投資するといった地域循環が生まれるような事業を展開しましょう。

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テーマ3 官民連携における行政の役割(米子市総務部調査課 鵜篭 博紀)

官の担当者は、官と民のそれぞれの立場を理解し、事業を円滑にする「通訳者」です。この講座では米子市の自治体新電力設立までの経緯や事業スキームを基に、官の担当者として何をするべきかを解説します。

ポイント

  • 事業主体を立ち上げる際、官の役割として重要なことは「政策の遂行」と「公平性」の担保
  • 電力需給管理を内製化し、電力小売事業者が民間への売電を行う等、新電力会社にコスト面での負荷がかからない工夫を模索
  • 民間事業者の参画を1者ではなく複数にすることで、公平性が保たれる。

1.官民連携をどう進めたか 〜自治体新電力の事例〜

自治体新電力「ローカルエナジー」は2015年12月、米子市と地元企業5社の出資によって設立されました。2011年度のプロジェクト調査事業、2013年度の導入可能性調査事業、2014年度のマスタープラン策定事業は、国の助成10分の10で行われ、2016年度の事業開始に至っています。

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当時、米子市の経済戦略課産業開拓室では、崎津工業団地の約20haの市有地を活用するミッションがあり、メガソーラー建設を立案しました。試算された建設費用約50億円の借入を地元金融機関に打診する等、資金調達を試みたものの実現には至りませんでした。結果として崎津工業団地には県の主導によりソフトバンクと三井物産が参画したメガソーラーが建設されました。

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当時鳥取県西部地域ではエネルギーコスト約500億円のうち約300億円が県外に流出していた実態があり、地域新電力を設立し資金の流出を抑えれば、地域経済を循環・活性化させることが可能であると考えました。

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電力小売事業は回収までのタイムラグが長いため、キャッシュフローの観点から、出資金は当初2,000万円の予定を9,000万円に変更しました。また米子市では事業主体は民間主導にしたいという思いから、議決権(50%)を得ないだけではなく、否決権(1/3)を得ない、あるいは国の関与が薄い第三セクターとなる(25%)ために米子市の出資比率は10%となっています。

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事業主体を立ち上げる際、官の役割として重要なことは「政策の遂行」と「公平性」の担保だと考えています。米子市としての事業の政策の位置付けは、地域内資金循環を目指すということであり、また公平性を担保するためには少なくとも3者以上の民間事業者の参画を目指しました。結果として民間事業者5者で事業を立ち上げることができています。
一方、民は経済合理性を求めます。事業は民間主導であるものの、米子市は、官として協力すべきところは協力するというスタンスをとっています。当初5MWの発電量が損益分岐点であると試算されていたため、米子市がこの5MWを需要家として利用しています。

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下図左のように、一般的な自治体新電力では電気事業者が需給管理を外部委託等で行います。米子市のローカルエナジーは地域内資金循環を目指す観点から、下図右の通り需給管理を外部の事業者に委託せず自社で行っています。また、問合せ等に対応するコールセンターの設置は費用面での負担が大きいことから、公共施設を除き、民間事業者・一般家庭には電力小売会社を通して売電を行う、いわゆるB to B to Cモデルを採用しています。

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2.官民連携における官の担当者の役割

官が新規事業を効率的に進められない理由は2つあります。
地域再エネ事業は、環境部署だけでなくどの部署でも担うことが可能ですが、新規事業に対して、庁内担当者が不明確であることが多くあります。また、地域再エネ事業を進めていくためのロジックをどう作るべきか、担当者がわからないというケースもあります。
米子市においては「担当部署が重要な施策として意欲的に取り組んだこと」と「地域内にエネルギー事業を推進できる有力な地元企業が存在したこと」が成功要因となりました。
官民連携においては、官の担当者は「官」と「民」の間で、それぞれのメリットとデメリットを理解し、裨益やリスクを伝える「通訳者」となることが非常に重要です。

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3.地域再エネ事業を進めていくために担当者が準備しておくこと

自治体の担当者は、第三者の民間事業者の知見やノウハウを得る、小さな成功体験を積み上げる、問題意識を発信して解決策を得る等の準備を常に意識することが大切だと考えます。

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